不穏度
30(100を満点として)
基本情報
公開年: 2000年
監督:ダニー・ボイル
脚本:ジョン・ホッジ
主なキャスト:レオナルド・ディカプリオ(リチャード)ティルダ・スウィントン(サル) ロバート・カーライル(ダフィ) ヴィルジニー・ルドワイヤン(フランソワーズ )ギヨーム・カネ(エティエンヌ)
上映時間:119分
あらすじ
バックパッカーの青年リチャードは、バンコクの安宿で自殺した男から「秘密の孤島にある未知の楽園(ビーチ)」の地図を譲り受ける。 フランス人のカップルと共に幾多の危険を乗り越え、ついに息をのむほど美しい極上のビーチへ。 そこには、外界を遮断して自給自足の共同生活を送る、選ばれた若者たちの秘密のコミュニティが存在していた。 リチャードたちも仲間として迎えられ、誰もが羨む夢のような楽園生活が始まったが…
評価
面白かったです。最後ちょっと失速しますが、そこまで酷評されるほどじゃないだろ…と思います。
というのも2000年公開のこの作品、駄作と叩かれたんですよ。
映画館に足を運んだワタシは「え?面白かったけどな?」と感じましたがいまいち自分の評価に自信を持てず、このたび26年ぶりに観返したのです。
まあ確かにお話は穴だらけだけど、美しいビーチ、若さゆえの未熟さを体現しているようなディカプリオ、ミニコミュニティ独特の気持ち悪さがリアル…などなど、欠点を補って余りある魅力的な映画かと。
では以下、どんなところが欠点でかつ魅力に溢れているか、まとめてみます〜。
感想
「ザ・ビーチ」が酷評されたのには理由があります。
一つは「タイタニック」(1997)で世界的スターとなったディカプリオが次に選んだ作品だったから。もう一つは「トレインスポッティング」(1996)のダニー・ボイル監督作品だったからです。要は期待値が上がりすぎちゃってたんですね。これは作品のせいではありません。
とはいえ、脚本が穴だらけやん…という批判はごもっとも。
バンコクに滞在していたリチャード(ディカプリオ)とフランス人カップルのフランソワーヌ&エティエンヌは、バックパッカーの間に広まっていた「孤島に楽園のような美しいビーチがある」という都市伝説を耳にします。そして海を泳いで島に上陸、滝壺に飛び込むという大冒険を犯して実際にたどり着く。するとそこには想像を絶する美しいビーチこそありましたが、想定外のことが…。
20名ほどのヒッピー集団が暮らしていたのです。3人はそのコミュニティの仲間になり、島で暮らしはじめます。魚を獲り、畑を耕し、家ももちろんDIY。
それぞれに仕事が与えられ、余暇はビーチバレーや読書など好きなことをする。
…って、え?いやこれ家でも出来るんじゃね?
んで肉とかチョコレートないんですよね?大広間で雑魚寝なんだけどセックスはどこで?食欲と性欲が満たされないのはキツイですよね。
その上、誰と誰がくっついたみたいな情報は筒抜け、偉そうなリーダーに従わないとならないし、嫌な奴もいるし、どこが楽園やねん、自分なら1日ももたないわ…。
っていう環境なのに嬉々としてビーチで暮らすリチャード…というところがまず疑問。
ただ、映画はリチャードのモノローグで始まっており、「刺激のない生活がつまらなくなってバックパッカーになったものの、結局安全圏から出られない自分が嫌だ」みたいな前提を示しているので、気持ちは分からんではない。
当時流行ってた「自分探しの旅」は、いつもと違う体験をすれば「本当の自分」に出会えて人生を打破できるという考え。ビーチでの生活は「いつもと違う」から新鮮味を感じたのです。
でも慣れてしまえばつまんなくなるのは当然なわけで。
そんな風に感じ始めたころ大事件がおきます。
仲間がサメに喰われたのです。亡くなった1人は埋葬して終了ですが、問題は大怪我を負って唸っている瀕死の男性。楽園の存在は秘密なので病院に連れて行くことはできません。
どうしたか?
なんと男性を森に置き去りにするのです。
「ひどい!」と抵抗して彼の側につくのはエティエンヌだけ。
その後、リチャードが不用意に渡してしまったビーチの地図を頼りにやってきた4人組は島の農民(島の別の場所では農民が大麻栽培をしています)に射殺され、リチャードは気が狂い、楽園は崩壊する。仲間は散り散りに故郷へ帰ります。
最後、正気を取り戻したリチャードが当時の最先端スポットだったネットカフェらしき場所でメールを開くと、ビーチで撮影したたった1枚の集合写真が出てくる。それはあの場所でだけ恋人だったフランソワーヌからの贈り物だった…というちょっと切ない終わり方をします。
まあ、夢の楽園なんてどこにもないのさ、というお話ではありますが、色々なことをあまりにも端折っているので穴だらけで、なんだかよう分からん。
ただ、「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)や「ファイトクラブ」(1999)「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007)と並び90年代終わり〜00年代の空気を実によく切り取った映画だと思いましたよ。
ネットの普及によって急速に変化していく社会。虚しさと疑問を感じつつそれが社会のせいなのか個人の問題なのかも分からない。一方、地球上にはまだ「余白」があった。それならここではないどこかにもっと素晴らしい世界、もっと素晴らしい自分があるはずだ…。誰もがそんなことをうっすら思っていた時代です。
「ザ・ビーチ」のリチャードの最後のモノローグはこうです。
「僕は今でも楽園を信じている。でもそれは探し求める場所じゃなく、心にあって想うもの」。
そりゃそうやろ…ってセリフなんですけど、この最後のネットカフェのシークエンスが不思議な後味につながっているんですよ。
モニター前に座ったリチャードが周囲を見渡すと、そこには同じようにモニターに向かって仕事をしている人たちがいる。それを見たリチャード、微笑むわけでもなく眉間に皺を寄せるでもなく、表情から心情は読み取れません。前述のセリフはこの後のものです。
この時リチャードは一見退屈そうに見える人々が、それぞれの心の中に「ザ・ビーチ」を持っていることを知ったのではないでしょうか?
話は変わりますが、テレビバラエティの世界には「あえて確かめない」という不文律があります。例えばある芸人が、友達の〇〇君がいかに変わっていて面白いか、とういう話をしてウケるとします。だからといってその〇〇君を連れてきても面白くはなりません。あくまで〇〇君は芸人の話術の中にいる「幻想の面白い人」なのです。
都市伝説も同じです。確認したとたんに失われてしまう。
それよりも夢のビーチを心に抱えたまま文明社会に飲み込まれたほうがいいよなあ…って、今気がついたけど、リチャードが管理社会にがっちり組み込まれたところで終わるんですね、この映画。だからスカッとせずにモヤモヤするんだな。
まあ、一番モヤるのは人を殺しておいて(最後のほうのエピソード)「苦い思い出」で済ませているところだけどな…。
こんな微妙な後味もまた面白いなあ〜と思う作品なのでした。
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文中の「ロスト・イン・トランスレーション」「イントゥ・ザ・ワイルド」レビューはこちら。
「ザ・ビーチ」の原作者はアレックス・ガーランド。ダニーボイル監督とよく組んでいます。映画監督としても「エクス・マキナ」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」「ウォーフェア 戦地最前線」を手掛けている多才な人です。結構好きかも知んない。
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」「ウォーフェア 戦地最前線」のレビューも書いているのでどうぞ。
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