不穏度
90(100を満点として)
その街に雨は降り続く
基本情報
公開年:1996年
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー
キャスト:ブラッド・ピット(デビッド・ミルズ刑事)モーガン・フリーマン(ウィリアム・サマセット刑事)グウィネス・パルトロー(トレイシー・ミルズ)ケヴィン・スペイシー(ジョン・ドウ)
上映時間:127分
あらすじ
<以下アマプラの紹介文より引用>
2人の刑事が追うのは、怜悧な頭脳を持つしたたかな連続殺人鬼。男は七つの大罪のいずれかに該当する者を狙い、おぞましい殺人を繰り返していた。そして最後には観る者の心を食い破る、驚愕のクライマックスが待つ
評価
いやあ〜…すごい。面白いって言うより「すごい」ですよね?!この映画。シビれます。好きなんですよねえ、デヴィッド・フィンチャーが作る世界観。
1996年の劇場公開時以来の鑑賞でしたが、衝撃は当時と同じ。あの結末を知ってもなお、2時間飽きることなく見入っていられる凄まじい力を持った作品です。キャスティング、美術、撮影、ストーリー、セリフ、全てが完璧。30年前の作品なのに今見てもスタイリッシュで全然古くないし。
まあ、好きな部分はたぶん皆さんと同じで、そのまま書くとありきたりのレビューになっちゃうんで、ここでは不穏映画好きから観たこの映画の素晴らしさと、30年ぶりに観て新たに思ったことなどを綴ってみようかと。では以下、ネタバレありの感想です〜。
感想
揺れる部屋とグウィネスの困り顔と
舞台はとある架空の街。実際のロサンゼルスとゴッサムシティの中間あたりの雰囲気と言ったら良いでしょうか…。月曜日に始まり、7日後に終わるこの物語の中では、ずっと雨が降り続いています。晴天の日曜日以外。そして登場人物たちは皆当然のごとく傘をさしません。ハードボイルドです。カッコいい!
猟奇殺人の話なんで当然ですが、全体的に不穏。雨はその不穏感をもたらす演出の一つです。その他、夜の場面が多く画面全体が暗いとか、耳障りの悪い街の騒音だとか、不穏演出は色々あるんですが、面白いなあと思ったのが「揺れる部屋」。この街に引っ越してきたばかりのミルズ刑事(ブラピ)とトレイシー(グウィネス)が住む部屋は、地下鉄が通るたびにかなりの激しさで揺れるのです。「不動産屋に騙されたんだよ」と、夕食に招いたミルズの上司、サマセット(モーガン・フリーマン)と3人で大笑いをするシーンの穏やかさが逆に怖い。
言うまでもなく部屋の揺れは若夫婦2人の心の揺れ、つまり不安感を表しています。刑事として一旗あげたいと焦るミルズ、無鉄砲な夫を心配する妻。その妻は妊娠し、「こんなヒドイ街(世界)に子供を産んでいいのか?」と悩むのです。
さらにもう一つ、画面を不穏にさせているのはグウィネスの顔そのもの。眉毛が薄く離れていて、表情を崩すとハの字になる。いつも困っているような不安げな顔をしています。まさにラストの「箱の生首」を想像できちゃうような顔なんですよ。きっと箱を開けたらあの表情があるんだな…って。細くて頼りない首や腕も嗜虐心を掻き立てます。
そんなグウィネスはブラピの紹介でこの役を得ています。撮影当時ブラピは駆け出し女優だったグウィネスと付き合っており、「はは〜ん、ブラピの奴、恋人をねじこんできたな?」と世界中の誰もが邪推したはず。でも今となっては、後に「プランB」という制作会社を立ち上げ良作を世に送り出すブラピのプロデュース能力に脱帽です。あの役柄はグウィネスの顔あってこそですよ!実際彼女の出世作にもなったしね。
合わせて考えると彼女が登場する場面って不穏感がすごいんですよね。ラストに集結するようになっている。早い段階から観客も悪い予感がしているから、あのラストに納得するのでしょう。
最後のセリフ/サマセットはジョン・ドウの後継者なのか?
久々に観て思ったのがラストのシークエンスの意外な長さ。自首してきた犯人、ジョン・ドウ(ケビン・スペイシー)の指示で荒野に車を走らせるミルズとサマセット。2人が前方に座り、金網を挟んだ後部座席にジョンが座ります。まずこの車中の会話シーンが意外と長い。ジョン、ここぞとばかりによく喋り、ミルズを怒らせることに成功。
ここまでジョンは7つの大罪のうち、「強欲」「暴食」「怠惰」「肉欲」「高慢」を象徴する人物を殺してきました(怠惰はわざと生かしたけど)。ここでの会話で、残りの2つ「嫉妬」と「憤怒」の「憤怒」を象徴する人物として感情的なミルズを選んだことを観客に気づかせます。そして後に「嫉妬」はミルズ夫婦の仲睦まじさを羨んだジョン自身だと分かる。
さて、車は高圧線鉄塔が立ち並ぶ荒野に止まります。そこにやってくる一台のバン。ミルズ宛てだという箱を持ってくる。箱の中身がトレイシーの首だと知り、全てを悟ったサマセットは、ジョンを見張るミルズの元に走る。ミルズにジョンを殺させないためにです。ジョンに銃口を向けるミルズ。止めようとするサマセット。プラピの演技が光るシーンですが、ここも意外と長い。ミルズは何度も躊躇する。ここ、サマセットが本気で止めようとしたら止められたはずですよね?!でもしなかった。その後は皆さんご存知の通り、ミルズがジョンを撃ち殺します。
ラストはパトカーで連行されるミルズ。サマセットの「ヘミングウェイが書いていた。『この世は素晴らしい、戦う価値がある』と。後半だけは賛成だ」という独白で映画は終わります。
ラッシュの後に付け足したセリフだそうですが、この最後の一言が「セブン」をもう一段深いものにしています。
7日後に退職予定のサマセットは、刑事としてあまりに多くの罪悪を見てきたが故に人間に絶望しています。犯人が7つの大罪に沿って連続殺人を行っていることに気づき、彼の思考を辿り始める。おそらくその過程で気づいたことでしょう。ヤツと自分は同じ考えを持っている、と。この世界に絶望しているという点で2人は同じです。でも解決策が違う。
絶望の果てにサマセットが考えたのが「この世界から降りる」だったのに対し、犯人(ジョン)の解決策は「自分が神の代理人となり、世界を立て直す」というものだった。殺人犯のほうがある意味ポジティブです。追うものと追われるものが実はポジとネガのような関係だったと気づくサマセット。ミルズを止めなかったのは、ジョンへの共感のせいではないでしょうか?
そして最後「戦う価値がある」と宣言する。世の中に絶望して身を引くことを考えていた彼を戦いの場に引き戻したのはジョンの存在です。もちろん、サマセットは善き人ですからジョンの仕事を引き継ぐわけではありません。ジョンとは正反対の方向で腐った世の中と戦い続けることになるのでしょう。
老練なベテラン刑事とイキリ若者刑事のバディものってよくありますが、もう一人の主役である犯人の側に思想があると深いものになりますよね。深淵を覗く者は、また深淵に覗かれるってヤツです。この作品ではサマセットの人間性の素晴らしさ故に、深淵の先のわずかな光まで見せてくれています。
世紀末を間近に控えた90年代の空気を思い出しました。時代の空気を纏っているのに、古くない。改めてどエライ作品だなあ、、と思ったのでした。
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デヴィット・フィンチャー監督では「ソーシャルネットワーク」もレビューを書いています。こちらもとても好きな作品!
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