不穏度
70(100を満点として)
自分の身に降りかからないとは言えない
基本情報
公開年:2024年
監督:二村真弘
上映時間:119分
概要〜和歌山毒物カレー事件とは〜
<以下、公式サイトより引用>
1998年7月25日、和歌山市園部地区の夏祭りで提供されたカレーを食べた67人が急性ヒ素中毒を発症、そのうち4人が死亡。同年12月、和歌山県警はカレーへのヒ素混入による殺人と殺人未遂容疑で林眞須美を逮捕。1999年5月、初公判。林眞須美は、過去の保険金詐欺は認めるものの、カレー事件をはじめとするヒ素関連事件については否認。続く二審からは無実を訴えた。2009年5月、最高裁で死刑が確定。戦後日本で11人目の女性死刑囚となる。2024年2月、弁護団が3回目の再審請求を和歌山地裁に申し立てる。林眞須美は現在も大阪拘置所に収容されている。
感想
30年ぶりくらいにイメージフォーラムに行って観てきました、今話題の「マミー」。26年前に起きた和歌山毒物カレー事件をもう一度問い直すドキュメンタリーです。
まさかあの事件にこんな別の事実があったとは!大変興味深く、考えさせられる作品でした。……と、こういったドキュメンタリーを「面白い」と表現するのも不謹慎だと思う程度の感性は持ってるんで、当たり障りなく書いてみましたが…いや、はっきり言って面白いです。すごく面白い映画です。
日本の司法制度について、報道について、警察の仕事って何よ?とか、様々な方向についてずっと考えることができるし、だとしたら真相は?ってことも考えられる。もちろん、被害者の方もいるので「面白がる」のは違いますが、興味を持つ、調べてみることの入り口になる作品かと。
現にワタシは「今まで死刑判決を受けてから再審請求が通った例はどのくらいあるんだろう?」「その再審で無罪になった例は?」となどと調べてみて驚愕しましたよ。人ごとじゃなくないですか?
映画に出てくるのは死刑囚林眞須美氏の夫と長男。林眞須美氏は無罪を主張して再審請求を申し立てています。その話は何年か前に知りましたが、当時の報道が記憶にあるワタシは「いやいやいや、そんな馬鹿な。無罪のはずないでしょ」と思ってしまいまして。
冒頭、ワタシのようにぼうっとニュースや新聞を読んでいた人間がなぜ「無罪のはずないっしょ」と思ってしまったのかを、事件の概要とマスコミの加熱報道ぶりから追っていきます。その流れに乗っているうちに、「あれ?ぼんやり知っていたことと違うぞ?」となってくる。外野の人間がいかに適当に「ニュースを消費している」か、自戒と共に嫌というほど思い知らされます。この目線は画面の中にも登場する二村監督と同じです。
観客同様、はじめはぼんやりとしか事件を知らなかった監督は、母親の再審請求を支援する長男と夫(林健治氏)に取材し、園部地区を回ってインタビューをする。
そんで割とサラッと健治氏から「本当はこうでした(当時の報道から受ける印象とまるで異なる)」とか、今回の取材で判明した新たな事実が見つかったりするんです。
こうなると俄然「無実では?!」という気になりますわな。が、もちろん警察・検察側の方々にも同様にインタビューしなければ公平性が失われます。二村監督、インタビューを試みるのですが…。
この作品が「面白い」のは、私たち観客が、現場に赴いた監督と同じ“感情の揺れ”を追体験できるところでしょう。最後、監督がある行動を起こすのですが、感情的にはすっかり同調してしまいます。
また当時なぜマスコミがあれほど騒いだのかも、この作品の「面白さ」から理解できるんですよね。えーと、大変失礼な言い方で申し訳ないんですが、、林家の人たちってキャラクターが濃いんですよ。テレビや雑誌が大好物の「キャラが立ってる」ってヤツです。可愛らしいたぬき顔でニコニコしながら報道陣にホースを向ける眞須美氏はむろんのこと、今作に登場する林健治氏のチャーミングなこと。彼の語りに場内はクスクス笑いが起きていました。そして顔はぼかしが入っていましたが、スラッと背の高い長男はどこにいても目立ってしまいそうです。
今、思い起こしてみるとあの事件が「視聴率・部数が取れるキャッチーな題材」として取り上げられ、「だから犯人であるべき」となり、その世論に「新しい科学分析技術」が乗っかり、なぜか警察も乗っかった…というストーリーが浮かんできます。ろくでもないな、ほんとに。
真実がどこにあるのかはまだ分かりませんが、あの時ぼんやりと事件を眺めていた私たちには、せめて関心を寄せる責任があるように思います。取り返しのつかないことが起きる前に。
劇場は満席でした!大変評判になっているので公開劇場も増えるかと。公式サイト貼っておきます