不穏度
40(100を満点として)
まあ、ビックリはするけれども。
基本情報
公開年:2025年
監督&脚本:オズグッド・パーキンス
キャスト:マイカ・モンロー(リー・ハーカー)ニコラス・ケイジ(ロングレッグス / ダル・コブル)ブレア・アンダーウッド(ウィリアム・カーター)アリシア・ウィット(ルス・ハーカー)
上映時間: 101分
あらすじ
<以下公式サイトより引用>
1990年代半ば、オレゴン州。FBI支局に勤める新人捜査官のリー・ハーカーは並外れた直感力を買われ、重大な未解決事件の担当に抜擢される。ごく平凡な家族の父親が妻子を殺害したのち、自ら命を絶つ。そのような不可解な殺人事件が過去30年間に10回も発生していた。いずれの現場にも侵入者の痕跡はなく、“ロングレッグス”という署名付きの暗号文が残されていたのみ。“ロングレッグス”とは一体何者なのか。真相に迫ろうとするハーカーは暗号文を解読し、事件にある法則を見出すが、その正体も行方も依然としてつかめない。だがやがてハーカーの過去とロングレッグスの意外な接点が浮上し、事件はさらなる恐ろしい事態へと転じていくのだった...。
評価
うーん…微妙。
昨年から楽しみにしていたんですよね、この作品。なんたって宣伝文句が「ここ10年で一番怖い映画」ですから!そりゃあ期待しますよね!!…ってことだったんですが、レビューサイトは公開初日から低評価の山。それでも観にいきましたよ!だってFBI捜査官VS変態殺人鬼ってのも大好物だしさ!!
…んで、実際に観ての評価は「怖くねえ!!ぜんぜん怖くねえよ!!」です。あれを10年に一度の恐怖という方は、「呪怨(ビデオ版)」観たら失神するのではないでしょうか‥?それともキリスト教圏の方には怖いんでしょうか?どうなの??
と、疑問符だらけだったのであとで色々と検索したら面白いことが分かりました。そんな情報も含めて以下、感想です〜。(ネタバレほぼなし!)
感想
監督自身の物語のほうが怖い
同作の監督はオズグッド(オズ)・パーキンス。なんと「サイコ」で文字通りのサイコ男、ノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスの息子なんですって。
父親であるアンソニー・パーキンスはゲイを隠して生き結婚、2人の子供にも恵まれます。しかしそれでもゲイの噂が広まる。まだ同性愛者に対して差別のあった時代です。母親は子供たちのために「嘘の幸せ」を作り出す。
以下、監督インタビューから引用
「本作では「母親と子どもの関係」が核になりました。母親が子どもに嘘をつくことを決断する、それは私の生い立ちにおける真実だったのです。母は、父が隠していたアイデンティティから私と弟を守るために嘘をついた。私の父親はゲイで、それは家族が日常生活のなかで許容できるものではありませんでした。母は悪意ではなく善意から、私たちへの愛情から嘘をつき、望みもしないフィクションを作り上げたのです。」
『ロングレッグス』オズグッド・パーキンス監督 なぜ人は怖い映画を観るのか 【Director’s Interview Vol. 478】 :2ページ目|CINEMORE(シネモア)
アンソニー・パーキンスは1992年エイズで死去。そしてオズの母は9.11のテロに巻き込まれて亡くなられています。そしてオズは今、ホラー映画監督。
この方の人生、映画より映画に思えます。失礼な言い方をすれば、そこらのホラー映画より怖い。はっきり言ってこの映画よりずっと怖い。
そう、監督自身もインタビューで触れてますが、この「ロングレッグス」は「母親と子供」を描いた作品であり、「親殺し」の話でもあります。
親、特に母親は子供を守る。時には他の子供を犠牲にしてまで。それはなぜか?「愛情」と言えばそうなんですが、母親は子供を自分の一部だと考えているからです。自分と異なる個体として見ていない。だから悲劇が起きる。子供が「完全なる個体」になるためには母親が自ら去るか、それができない相手なら、子供が母親を殺さなくてはならないのです。
そんなことを考えると、ヒロインのリーは監督自身でもあるのかも知れませんね…。なかなかキツイ話です。
だからと言って良くはない
上記が後で調べて分かったことですが、だからと言って映画として良いかと問われると、ハッキリ言って良いとは思えません。「羊たちの沈黙」「セブン」、そしてワタシが愛してやまない黒沢清の傑作「CURE」を参考にしたそうですが、それにしちゃあ残念。
(ここから先は完全に悪口になります)
オープニングから嫌な予感はしました。真っ白い雪に覆われた家の前に停まる一台の車。家の中から少女が一人出てくる。不穏です。良いです。ところが、無駄に怖さを煽る効果音がついてるんですよ。雪なんですから逆に音を吸うくらいのほうが怖くなるのに。いらんて。あと、怪しい農場に捜査に行く時に雷が光ってるとか。いらんて。毛布めくって腐乱死体そのものを見せちゃうとか。それもいらんて。こういう過剰な演出って、徹底的にやればヘビィメタルみたいな様式美になって、それはそれで面白いんですが、そこまで踏み込めていない。
それから、FBI新人捜査官のリーですが、劇中ずっと斜め下に目線を向けて小刻みに震えてる、みたいな演技してます。いやほんとにずっと。ニコラス・ケイジだけは絶賛されている通り素晴らしいですが、あまり良い役には思えません。
…うーん、本当に悪口だな。
良いなと思ったところはリーのお母さんが一人で暮らす実家の美術かな。居間にもキッチンにも物が溢れて階段にも荷物を置いてある様子、実家あるあるではないでしょうか。寂しいんですよね、子供がいなくなって。この母親の心象風景をセットで表しているのにはグッときました。
それと「階下の男」とは誰なのか?とかリーの超能力は何だったのか?あとそもそも「ロングレッグス」の意味は?など、考察も色々できそうですが、まあ、この映画に関してはいいかな〜、ってところです。
どうにも悪く書いちゃいましたが、キリスト教のことをわかっている方、アメリカ文化に詳しい方なら面白いのかも知れません。
好意的で優れた分析をしているサイトもたくさんありますんで探してみて下さい!
公式サイト貼っておきます〜。
FBI新人女性捜査官VS殺人鬼といえば「羊たちの沈黙」。傑作です。スリラーですが、怖いだけじゃない様々な要素が入っています。
「CURE」。こちらも大傑作。雰囲気似せたのは分かるよ。分かるけれども。「異能力」もスリラーにピッタリだよね、分かるよ。分かるけれども。
もちろん「セブン」も好きな作品なので、そのうち書きます。