映画ごときで人生は変わらない 

不穏映画が大好物のアラカン女 不穏度を数値化しています 感想と考察が入り混じる映画レビュー すべて個人の感想です

書籍【急に具合が悪くなる】感想

※映画の感想ではありません

 

近年、新作を撮るたびに話題になる濱口竜介監督。最新作「急に具合が悪くなる」もカンヌで最優秀女優賞を獲得し、日本映画界に明るい話題を振りまいています。

もちろん、「ハッピーアワー」(2015)で度肝を抜かれてから欠かさず濱口作品を観続けているワタシも楽しみにしています。ってか楽しみなあまり、原作本を買っちゃいましたよ!(2026/6/25追記:映画のほうも見てきました!レビューはこちら

ということで、今回は本のレビュー。

一言で言えば「今まで読んだことのない類いの本」で、ちょっと言い表しようのない読後感を得ています。何かがしっかり心に刺さったんですけど、深いところに刺さり過ぎて、ちょ、よく見えないぜ…って感じ。

感動した!と言えばその通りなんですけど。

 

著者は哲学者の宮野真生子さんと人類学者の磯野真穂さん。

苗字と名前が一文字づつ被り、年齢は1歳違い、誕生月は同じ7月で、共に左利きという2人。

宮野氏は癌で「急に具合が悪くなるかもしれない」状態。その彼女がイベントで出会った磯野氏に声をかけて始まった往復書簡がまとめられています。

確実に死に向かっている人と、その死を見届けるであろう人の間で交わされる思考と言葉。

著者たちの状況が【劇的】なのにも関わらず、闘病記でもなければ看護記でもない。

それぞれの仕事、つまり哲学者と人類学者としての目線を保ちつつの理知的・客観的なやりとりの中に、手紙(メール)という1対1の閉じた空間ならではの親密さがグっと差し込まれる。

宮野氏が病魔と戦う中で哲学者として考えたこと、そして転んでもタダでは起きない宮野氏と関わることになった磯野氏が医療人類学者として考えたことが語られ、10便のやりとりの後、宮野氏は亡くなります。

その後に明記されていて驚いたのが(その前に書いてあったかもですが)、2人が出会ってから1年も経っていないこと、そしてわずか5回しか会ったことがなかったということです。

この短い期間に2人は『魂の分け合いという物語』を紡ぎ、『偶然が必然となり、運命へと転化していく』様をみせてくれる。

往復書簡という手法だからこそ、そういった著者たちの心の流れがリアルタイムでダイレクトに読者に投げ出される。感動的です。

そして宮野氏が20年研究を続けたのが九鬼周造。

磯野氏との10便の書簡を経た最後、彼女はこう語ります。

ようやく、九鬼が『偶然性の問題』の結論で語った謎めいた言葉の意味がわかった気がします。

どういう意味なのかはぜひ読んでいただきたいですが、彼女が気づきを得た…大袈裟に言えば「研究を完成させた」のは磯野氏との関係性があってこそなんですよね。

最近は亡くなる直前まで仕事(workじゃなくてjobのほう)をする人が増えたように思います。そうありたいものですが、宮野氏もその一人です。

磯野氏は宮野氏の思考を最後まで止めないよう尽力した。宮野氏もそれに応えた。これまでの生き方に矜持があるからこそ出来ること。ほんと死に様って生き様よね…。

自分も身近に“急に具合の悪くなりがちな人”がいます。あるいは年齢的にも、いつどこで自分自身の具合が悪くなるかも分かりません。

自他共に認めるダメ人間なので、辛い現実からは逃げられるだけ逃げる所存ですが、どうにも逃げられなくなった時にこの本を再読しようと思っています。その時までお守りのように持っていたい一冊になりました。

さて、

今回の映画化がなければこの本を読むことはなかったし、存在すら知らないままだったでしょう。

ワタシが映画のことを考える時、窓が開け放たれた風通しのよい部屋が浮かびます。その部屋にいれば知らない風を感じることが出来る。気が向けば窓から出て知らない世界を歩くことも出来る。

こういう出会いがあるから映画って面白い。

磯野さんの専門「医療人類学」にも興味を持ってしまったので、そんなことを思いました。

「急に具合が悪くなる」、

原作本のあらすじなどはAmazonをどうぞ。Amazonレビューも参考になりますよ〜。

映画のほうはこの原作を大胆に脚色。大変な評価を得ていますが、残念ながらワタシにはハマらなかった…!その理由を書いています。

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