不穏度
35(100を満点として)
ふつうのホラーに見せつつやっぱヘン。
基本情報
公開年:1992年
監督:黒沢清
脚本:富岡邦彦 黒沢清
キャスト: 久野真紀子(成島秋子)松重豊(富士丸)長谷川初範(兵藤哲朗)諏訪太朗(吉岡実)緒形幹太(野々村敬)由良宣子(高田花枝)大杉漣(久留米浩一)
上映時間:97分
あらすじ
<以下、アマプラの紹介文より引用>
〜前略〜
バブル景気で急成長を遂げる総合商社に二人の新人がやってきた。ひとりは絵画取引を担当する秋子(久野真紀子/現 クノ真季子)。そしてもうひとりは巨体の警備員・富士丸(松重豊)。元力士の富士丸は兄弟子とその愛人を殺害。しかし精神鑑定の結果無罪宣告されていた要注意人物だった。秋子が慣れない仕事に追われる日々の中,警備室では目を覆うばかりの惨劇が始まっていた。恐怖の一夜を支配する警備員の影が迫る!
評価
面白怖い、王道ホラー!…と思わせつつ隠し切れないマイナー感が漂う、実にキヨシっぽい作品でした!!松重豊氏の出世作として知られているだけに、サイコパス警備員である彼の存在感が大きい。他にも黒沢清監督のトレードマーク、ビニールカーテンがしっかり出てきたりしてファンにも嬉しい一本です。
では以下、ざっと感想です〜。ネタバレはほぼなしですが、ラスト部分に触れています!
※ネタバレが絶対嫌という方はこちらからアマプラへどうぞ!
感想
これは陰性の「ダイ・ハード」
そろそろタグつけてまとめないとな…と思うほど多くなってきた黒沢清監督作品レビュー。あくまで主観ですが、黒沢作品は脳内で「名作」と「ヘンテコ」の箱に分けています。(追記:「黒沢清」タグ作りました。タイトルの下にあります。クリックすればここまでの全レビュー出てきます)
今回が初見の「地獄の警備員」は意外にも「名作」。ちなみに世間的に名作と言われている「回路」はワタシ的には「ヘンテコ」です。
なぜ今作が「名作」かと言えば、王道の「ホラー/スリラー」というガワを借りながら、その実、狂気を孕んだ作家性が蛇口の壊れた水道のようにドバドバ溢れ出しているからなんですよ!
松重豊演じる「富士丸」は元力士。殺人を犯したものの、精神鑑定の結果無罪となっている事が冒頭で明かされます。この人物が警備員としてオフィスビルにやってくる。その後は全てビルの中で話が展開します。そしてここで働く主人公らに逃げ場はない。そう、これ「ダイ・ハード」なんですよ。度々ビルの外観を映すことからも明らか。
さらに棍棒を武器に無表情で次々に人を襲う富士丸はジェイソン的なキャラクター。ビルの地下に富士丸が作っているアジトはハリウッド映画の猟奇殺人モノによくあるような雰囲気だし、嫌なヤツがちゃんと殺される、というところも王道。
…とメジャー映画をオマージュしているにも関わらず、隠しきれないアングラ感が暴走してしまうのがこの監督の面白いところ。
例えばラスト、生き残ってビルから出てくる夫に妻と子供が駆け寄る。ダイ・ハードにもこんなシーンありましたよね。感動の再会です。そこまではいい。
しかしもう一人生き残った主人公の成島という若い女性は、家族で抱き合う感動シーンの脇をまるで近所のコンビニにでも行くかのような無関心さでスタスタと通り過ぎ、公園の階段を上ってフレームアウトしていくのです。
「……え、マジで何考えてん??」
サイコパス警備員との命がけの死闘を終えた直後だぞ?
ハリウッド映画なら100%あり得ない、徹底的に冷え切った断絶感。この理解不能な光景が、猛毒となって脳裏にこびりつき、離れなくなるのです。
いや、マジ何なんですかね、このラスト…。もしかしてここが一番怖いのでは…?
痩身の松重豊を巨体に見せる執念
さて、富士丸は元力士。事あるごとに「大きな警備員さん」「大きな人」というセリフが出てきますが、巨体というには無理がある。松重豊氏、身長は188センチですが、モデルようにスラリと痩せてるんだもの。
それを「力士上がりの巨漢」に見せるため、映像的に様々な工夫が凝らされています。
一つはずっと室内にいるのにコートを着ていること。警備服の上にロングコート。こんな格好をしているのは彼だけです。おそらく肩パッド入りのコートで、少しでも身体を大きく見せたかったのでは?
そして影を多用。実体よりも大きく見えます。
さらにクライマックスでは明らかに箱馬に乗ってんなという高低差ありすぎ場面も。
走る場面がほとんどなくて動作が落ち着いているところにも「大きさ」を感じます。
そんなのが積み重なって、「大きい人=怖い人」になっているのです。松重豊を、物理的な恐怖の象徴として完成させる、という執念。
この徹底した「盛り」と、一方で見せる突き放したような「虚無」が実に黒沢清作品なわけですよ!
さて、最後に。
オフィスビルの中で次々と会社員たちを手にかけていく富士丸。殺人場面は割と怖い…っていうか嫌な気分になります。会社に必ずある身近なものを道具にしているからです。
北野武監督もアウトレイジシリーズで「『どんな殺し方をしようか』と考えていた時が一番楽しかったね」と語っていましたが、銃のない国で生まれるバイオレンスシーンの創意工夫っぷりは生々しくて凄い。ワタシが一番嫌だったのは熱湯ですけどね…。グロ耐性ない方は要注意です!
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