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【イノセンツ】ネタバレ感想/「童夢」の素晴らしさに改めて気がつく一本

 

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不穏度

65(100を満点として)

全ての子供はサイキッカー

基本情報

公開年:2023年

監督&脚本:エスキル・フォクト

キャスト:ラーケル・レノーラ・フレットゥム(イーダ)アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ(アナ)ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム(アイシャ)サム・アシュラフ(ベン)

上映時間:117分

あらすじ

<以下公式サイトから引用>

緑豊かな郊外の団地に引っ越してきた9歳の少女イーダ、自閉症で口のきけない姉のアナが、同じ団地に暮らすベン、アイシャと親しくなる。ベンは手で触れることなく小さな物体を動かせる念動力、アイシャは互いに離れていてもアナと感情、思考を共有できる不思議な能力を秘めていた。夏休み中の4人は大人の目が届かないところで、魔法のようなサイキック・パワーの強度を高めていく。しかし、遊びだった時間は次第にエスカレートし、取り返しのつかない狂気となり<衝撃の夏休み>に姿を変えていく─ 。

評価

観る前にあらすじを読んだ時「え、これ大友克洋の『童夢』じゃん?!」と思いましたが、やはり「童夢」に《インスパイアを受けた》と表明している作品でした。何や?インスパイアて。監督インタビューによれば「AKIRAを見て漫画を読み、『童夢』をみつけてインスピレーションを受けた」とのこと。原作にはせえへんけど、名前は出させてね、ってところでしょうか…?!

さて、評価はというと「面白かった!」とは言えるのですが、うーん…はっきり言うと「童夢」のほうが100倍面白いです。いや、映画がつまらんわけではないですよ?漫画のほうが素晴らし過ぎるってだけで。

じゃあどの辺が?という感想を「童夢」と比較しつつ以下つらつらと書いてみます。(注!ネタバレありです!)

感想

「童夢」と比べてみると…?

同作を観たあと改めて「童夢」を読見直して気づいたのですが、大きな違いは語り手です。

「イノセンツ」では、語り手となるのは9歳の少女イーダですが、「童夢」では団地で相次ぐ不審死を捜査している刑事(途中で語り手であるベテランが亡くなり、部下が引き継ぎます)です。つまり映画ではサイキッカーの子供たちの世界を、能力はないけれど同じ子供が見ているのに対し、漫画では大人が子供たちの世界を覗き見している。

大人には子供の考えが分かりません。分からない方がよりミステリーになるし、不穏になる。映画が物足りなく思えたのは語り手が子供だったからなのかも、と思いました。

さて、「イノセンツ」のストーリーをざっくり説明しますと…

団地にイーダとその姉アナが引っ越してくる。アナは自閉症。イーダは両親がアナの面倒に追われ自分をかまってくれないことを寂しく思っている。そしていじめられっ子の男の子ベンに出会う。ベンは念力でモノを動かす能力を持っている。遊びながら能力を開発していくベン。一方のアナもテレパシー能力を持つアイシャと出会い、言葉を話せるようになる。

…と、特殊能力のある子が集まるのですが、なんせ子供なんで力を制御できない。その上ベンは性格が歪んでいるので力を悪い方向に使いはじめ、ついには人を殺してしまいます。(猫好きには物凄く嫌なシーンがあります!!要注意!)

そのベンを止めるのがアイシャ(すごくいい子!)とアナ。しかしアイシャは対決に敗れ死んでしまう。そんで最後はベンVSアナの静かなる対決になるんですが、ブランコを支えている鉄柱がぐにゃっと曲がる所とか、子供たちだけがこの対決に気づいているとか、ここは「童夢」のクライマックスと全く同じです。インスパイアし過ぎやん…。

ただ、「童夢」の方は、この前に「エッちゃん」(映画ではアナとアイシャに当たる子)VS「チョウさん」(映画ではベン)が空中サイキックバトルを繰り広げ、団地を半壊させてしまうスペクタルシーンがあるんです。この凄まじい「動」のシークエンスの後、最終決着が静寂の中で行われるから対比となり素晴らしいラストになっているんですわ。

映画の方は、迫力の団地ぶっ壊しシーンがなかったのが残念(予算の都合もありそうですが)だし、そのせいで最後のシークエンスもさほど盛り上がりの効果なく終わってしまいます。

とはいえ、子供の視点で、子供ならではの苦しみや悲しみがより描かれていたのは映画のほうで、そのあたりは胸を打つものがありました。自閉症の姉を持つイーダはケアをしなくてはならない立場です。今すぐ走って遊びに行きたいのに意思疎通のできない姉と一緒にいなくてはならないこと、さらにはその姿を友達に見られるのもとても嫌なはずです。でも嫌と言ってはいけない、と思っているし、家族としての愛情もある。行き場のない感情は、姉の靴にこっそりガラスの破片を入れるという行動にたどり着きます。彼女はサイキッカーではないけれど、心に閉じ込めたその激しい愛憎が周囲の能力者の力を増幅させたのは明白。

あまりにも“生々しい感受性を持った子供”は皆、「サイキッカー」である…。このメッセージは「イノセンツ」にも「童夢」にも流れているように思います。

団地という不穏

さて、映画はノルウェー・デンマーク・フィンランド・スウェーデン合作とのこと。北欧にも「団地」的な巨大集合住宅ってあるんですね。設定は「ノルウェー郊外の住宅団地」。ロケ場所もとても魅力的でした。団地とはいえ画一的には見えず、周囲は森で子供達の隠れ場所がたくさんあるんです。

一方、漫画「童夢」の団地は都市に浮かぶ巨大な軍艦のよう。見開きページの、扉の一つ一つまで執拗に描かれた夜の団地はそれだけでゾッとする不気味さがあります。

連載が始まったのは1980年。となるとおそらくモデルは「自殺の名所」とまで言われた巨大団地「T団地」でしょう。高度成長期は「夢の住宅」と言われた団地が、一転し禍々しいイメージに覆われはじめたころです。

団地って、マクロで見れば同じ間取りの部屋が無数並んでいるのに、ミクロでみると一戸一戸全く異なる生活がある。天国のような部屋もあれば地獄の様相の部屋もある。当たり前ですが、映像的に考えると、とても面白いです。

…なんて思ったことを色々書いてみましたが、まだなんか忘れている気がするので、思い出したらまた追記します!

映画「イノセンツ」はアマプラで観られます〜

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教科書に載せたいくらいの名作「童夢」。ワタシは1983年の第一刷版を持っています!(自慢!!)初めて読んだ時本当に度肝を抜かれたし、今読んでもまたひっくり返るくらい凄いです!

大友克洋原作・監督の「AKIRA」レビューはこちら。こちらもあまりにスゴイ作品です。原作漫画も、そしてアニメもどちらも良いってパターン。

kyoroko.com