不穏度
30(100を満点として)
高跳びZQNは怖いってば…
基本情報
公開年:2016年
監督:佐藤信介
脚本:野木亜紀子
キャスト:大泉洋(鈴木英雄)有村架純(早狩比呂美)長澤まさみ(藪/小田つぐみ)吉沢悠(伊浦)岡田義徳(サンゴ)片瀬那奈 (てっこ/黒川徹子)
上映時間:127分
あらすじ
<以下アマプラ紹介文より引用>
鈴木英雄。仕事は冴えない漫画家アシスタント。彼女とは破局寸前。そんな平凡な毎日が、ある日突然、終わりを告げる…。徹夜仕事を終えアパートに戻った英雄の目に映ったのは、彼女の「異形」の姿。一瞬にして世界は崩壊し、日常は非日常へと姿を変えて行く。謎の感染によって人々が変貌を遂げた生命体『ZQN(ゾキュン)』で街は溢れ、日本中は感染パニックに陥る。標高の高い場所では感染しないという情報を頼りに富士山に向かう英雄。その道中で出会った女子高生・比呂美と元看護師・藪と共に生き残りを賭けた極限のサバイバルが始まった…。
評価
どうにも好きなんですよね、この映画。邦画には珍しいゾンビもの(劇中では「ZQN(ゾキュン)」と呼ばれています)で、日本ならではのリアリティがある。ショッピングセンターに立て篭もるなど、古典ゾンビ映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」に非常によく似てはいますが、2010年代の日本の時代の空気をしっかり纏っています。最後のカタルシスは凄まじく、エンドロールが終わるまでドキドキが止まりません。
ゾンビものなんでグロ描写がバリバリにありますが、それが大丈夫な人には「本当に面白い邦画の一つ」としてぜひおすすめしたい一本です。では以下、ネタバレありの感想です〜。
感想
原作は花沢健吾の同名漫画。「ビックコミックスピリッツ」連載当時、毎週楽しみに読んでいました。(とはいえ最後の記憶がないので、途中で失速、脱落したのだと思います。)
映画版「アイアムアヒーロー」はこの原作の前半部分を実写化したもの。主人公の英雄は冴えない漫画アシスタント(実に花沢健吾らしいキャラです)。一度は新人賞か何かを獲ったけれどその後は泣かず飛ばす。同棲する恋人の徹子に「いつまで待てばいいのよ?!」とドヤされても言い返せない。そんな彼の唯一といえる趣味がクレー射撃で、散弾銃を持っています。
冒頭、英雄の冴えない生活とアシスタントとして働く漫画家の家での様子が描写されると、つけっぱなしのテレビから「〇〇市で土佐犬が住民を噛みました」というニュースが流れてくる。その後、「訂正です。住民が土佐犬を噛みました、の間違いでした」。
原作通りですが、なんという素晴らしい導入!ここから街が不穏に包まれていきます。
街がZQNで溢れ、英雄は散弾銃だけを持ち命からがら東京を離れる。恋人の徹子も感染してしまいます。原作では徹子との戦いが前半のクライマックスでした。徹子はギリギリ人間の心があるうちに自ら扉を噛んで歯を折ります。英雄に噛み付いてしまっても出血させないように。ZQNは血液感染するのです。映画ではわかりにくかったですが、原作では後に英雄が徹子のこの思いに気づき、号泣するシーンがあったように記憶しています(ごめんうろ覚え)。
恋人一人守れなかった英雄、徹子の思いに気がつき覚醒すると思いきや…散弾銃は最後のほうまで撃ちません。これが花沢健吾の描く「氷河期世代のヘタレ」のリアリティなんですよね。何度となく挫折し、嘲笑されてきた人生。一度のきっかけくらいじゃ覚醒なんてしませんよ。
英雄はこの後、「標高の高い場所では感染しない」という掲示板の噂を元に、半ZQNの女子高生・比呂美と共に富士山を目指す。比呂美を守るという使命感はありますが、逆に助けられたりしつつ、麓町のショッピングモールで立てこもっていた人々とZQNとの戦いに巻き込まれていきます。
ショッピングモールの中が対ゾンビより恐ろしい人間同士の確執で渦巻いているのは「ドーン・オブ・ザ・デッド」と同じ。「ミスト」にもこんなシークエンスがありましたね。
そして英雄はここで大ピンチになり初めて散弾銃を構えZQNを仕留める。一発撃ってからは百発百中で凄まじい死体(ZQN)の山を築きます。クライマックスとなるこの場面がすごい。ZQNも元は人間ですから皆個性的。警備員の姿で交通整理をしながら襲ってくる者もいれば、元力士らしき者もいる。散弾銃がこの物語にぴったりなのは、至近距離での戦いになるからです。ルサンチマンの塊のような英雄からすれば社会とは「自分を嘲笑う敵」です。ZQNとの戦いはそのまま社会との戦いになるわけですが、その「社会」もまた個性ある一人一人で出来ているということを思い出させてくれるのです。
へとへとになりながら最後の一人を撃ち殺し、ヒーローになる英雄。あくまで英雄個人の「自分史上最高の自分」に過ぎないのですが、この小宇宙感が非常に2010年的というか、氷河期世代的というか、失われた30年的というか、空気感がよく出来ていて、それも含めてなんだか涙ぐんでしまうのです。
続編があってもおかしくないような終わり方ですが、今の所なし。うだつの上がらない中年の大泉洋、嫌味のない女子高生(比呂美)の有村架純あっての傑作ですんで、多分続編は無理だろうな。
監督は「GANTZ」「キングダム」などの大作を手掛ける佐藤信介。アクションシーンの迫力はさすがです。
「アイアムアヒーロー」はアマプラで観られます〜。
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原作漫画はこちら。
カタルシスのあるゾンビシーンといえば「桐島、部活やめるってよ」を思い出します。こちらのゾンビは劇中劇ですが、血飛沫シーンになぜか感動してしまう名作です。

