不穏度
25(100を満点として)
今の時代も変わらないんだよなあ…
※不穏度100映画はこちらにまとめています
基本情報
公開年:1964年
監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック/ピーター・ジョージ(英語版)/テリー・サザーン
キャスト:ピーター・セラーズ(トレンジラヴ博士/マンドレイク大佐/マフリー大統領)ジョージ・C・スコット(タージドソン将軍)スターリング・ヘイドン(リッパー准将)
上映時間:93分
あらすじ
<以下アマプラ紹介文より引用>
時は冷戦の真っ只中。アメリカの戦略空軍基地司令官リッパー将軍が突然、ソ連への水爆攻撃を命令する。ところがソ連が保有している核の自爆装置は水爆攻撃を受けると10ヶ月以内に全世界を破滅させてしまうと判明。両国首脳陣は最悪の事態を回避すべく必死の努力を続けるが、水爆はついに投下されてしまう・・・。
評価
映画好きのわりに重要な作品を観てなかったりするんですが、今作「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(正式タイトルです)もその一本。2025年の夏に初めて観たのですが中身が古くないことに驚き!っつうか60年やそこらじゃ人間は変わらんってことですな。名作を前にして今さらですがイギリスらしさ全開のブラックコメディで、細部が実に面白かったです。クスクス笑いが止まらんなあ〜なんて観ていると突如笑えないラストがやってくる。中盤以降〜ラストのたたみかけは圧巻です!では以下、どの辺が古くないのかも含め、ざっくり感想です〜。
感想
最終兵器は安上がり?!
「核武装したほうが安上がり」と言って当選した政治家がいますよね。びっくりしましたよ、だっておんなじセリフが1960年代の作品である今作に出てくるんです。
水爆攻撃を受けると全世界の生物を絶滅させる「皆殺し兵器」が自動作用してしまうシステム。いわば究極の最終兵器です。その恐怖の最終兵器をソ連が作っていたことが発覚。自分らも死ぬのになぜそんなものを作った?と問われた時にソ連側の大使が言ったのが「安上がりだから」。
いやはや。
相手が強い兵器を持ったら、それ以上の強い兵器を開発しないとならないという連鎖。それを終わらせるために人類皆殺し兵器を作るという発想です。兵器開発は終わりになるし、あくまで脅しだから使う気はない。
そしてどうなったかと言えば、米国のたった一人のナショナリストが水爆を打ち込んだら、ソ連の皆殺し兵器が自動的に起動、2国とも慌てふためくけどどうにもならない、という結果に。果たしてこれが「安上がり」なんでしょうかね?
それと現代にも通じると思った部分がもう一つ。
事の発端はリッパー将軍が単独でソ連への水爆攻撃を命じることなんですが、そのリッパー将軍、陰謀論者なんですよ。「共産主義者の陰謀で水道水にフッ素を入れられている!」と。水道水フッ化物添加は虫歯予防のためなんですが、賛否両論ある上、一度大きな事故もあり陰謀論者にとっては鉄板のネタなのだとか。
冷戦なんて遠い昔の話だと思っていましたが、恐怖や無知につけ込まれる心理は今も変わらないってわけです。
笑いと恐怖が交差する名ラスト
さて、「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」は米ソ冷戦時代の真っ只中に作られたアメリカ・イギリス合同作品。深刻なテーマではありますが笑えるセリフが随所に散りばめられたコメディです。
ワタシが間抜けなんだと思うけどトレンジラヴ博士(マッドサイエンティスト)とマンドレイク大佐(イギリス人)とマフリー大統領(まともな人)をピーター・セラーズが1人3役で演じていたことをエンドクレジットを見るまで気がつかなくて仰天しましたよ。
3役それぞれ個性的な人物ですが、特に異彩を放つのがトレンジラヴ博士。タイトルに出てくる「博士」とはこの人のことです。ちなみに印象的なタイトル和訳「異常な愛情」は役名の「ストレンジラヴ」の直訳だそう。
このトレンジラヴ博士はアメリカ国籍ですが元はドイツ人。半身不随のようで、ピカピカの車椅子に乗り黒スーツに黒メガネ。出番は少ないのですが一度見たら忘れられないキャラです。
そんでですね、こいつ、不随の右腕を押さえてないとナチ式敬礼をしてしまうということがラストで判明(笑うところです)!想像以上のヤバさだよ!しまいには「大統領!」というところを間違えて「総統!」と言ってしまう。
さらにこいつが語る「人類生き残り作戦」がまさにナチスの優生学。優秀な男性と魅力的な女性を一夫多妻制にして地下に籠もれば世代を繋げられる、と。最後に車椅子から立って「立てました!総統!」と涙声で訴えるのは爆笑ものです。(彼の理屈だと障害者は淘汰される側だからね)
こういうのはイギリス人であるキューブリックならではというか、アメリカ映画だったら作れないんじゃないのかな。
さて、映画としての面白さを言えば、冒頭に大事件が起き、周囲がそれを阻止しようと解決策を出すも、一つまた一つとつぶされていく…という展開。最後のほうはほぼコントです。
そしてもう一つの主役と言えるのが米国首脳陣が集まる会議室のセット。円卓と、バッグには現状を刻々と映し出す巨大モニター。実にキューブリック的な座りのいい一枚絵になっています。「踊る大捜査線」にもこの会議室のオマージュがありましたね。
ラストは核爆発の映像。「また会いましょう」という第二次大戦中の流行歌に乗って次々と核が爆発するこのシーンが同作を名作たらしめています。あーあ、人類滅亡かよ…。私たち観客はそこまでの道程を思い返してしんみりとする。だって、攻撃を仕掛け、爆弾を落とした人々は悪人じゃあないんです。「共産主義者を見たら敵と思え」という、当時の常識である教えに従っただけなんですから。
とりあえず手遅れになる前に観ておいて良かったなと思いました。
NHKBSプレミアムシネマで8月5日にOAするそうなので、ぜひ!
アマプラでも観られます〜。
アマゾンプライムは30日間無料体験できます。ここから申し込みに飛べます〜。
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