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【ドールハウス】感想(注!ネタバレちょっとあり)/コメディの旗手が古典ホラーを撮ったらこうなった!

不穏度

50(100を満点として)

怖いけどそれよりも「面白い」Jホラー!

基本情報

公開年:2025年

監督&脚本:矢口史靖

キャスト:長澤まさみ(鈴木佳恵)瀬戸康史(鈴木忠彦)池村碧彩(鈴木真衣)

本田都々花(鈴木芽衣)田中哲司(呪禁師の神田)風吹ジュン(忠彦の母)

上映時間:110分

あらすじ

<以下、公式サイトより引用>

5歳の娘・芽衣を亡くした鈴木佳恵(長澤まさみ)と夫の忠彦(瀬戸康史)。

哀しみに暮れる佳恵は、骨董市で見つけた、芽衣によく似た愛らしい人形をかわいがり、元気を取り戻してゆく。

佳恵と忠彦の間に新たな娘・真衣が生まれると、2人は人形に心を向けなくなる。

やがて、5歳に成長した真衣が人形と遊ぶようになると、一家に変な出来事が次々と起きはじめる。

佳恵たちは人形を手放そうとするが、捨てても捨てても、なぜかその人形は戻ってくる…… !人形に隠された秘密とは?そして解き明かされる衝撃の真実とは―― !?

評価

面白かったー!&怖かった!でも怖いシーンばっかりじゃないので苦手な人も大丈夫!(だと思います!!)生まれてこのかた観たホラーで一番怖かったのが「呪怨1(ビデオ版)」なんですけど、この恐怖度を100とすると今作は50くらいかな。

物語を構成している要素は「子供を失った夫婦」「捨てても捨てても帰ってくる人形」「人形とお友達になる子供」「都市伝説」「離島」「呪術師」「呪われた墓」などなど、目新しいものはありません。そもそも人形系ホラー自体が手垢にまみれたテーマです。それでもお話の転がし方と、妙なひっかかりとアイデアでここまで面白怖くなるとは!

矢口史康監督といえばコメディの旗手ですが、やっぱりこういうセンスのある人はホラーも上手いよね!!と安心して観てられる(いや怖いけど)1本でした。

では以下、感想です〜。なるべくネタバレしないように書きますが、どうしても書いておきたい点もあるので少々ネタバレありです!

感想

人形系ホラー「ミーガン」との違いは…?

オープニングはどんよりした空からのパン。新興住宅街で長澤まさみたちらママさんが談笑。どうやら今日は近所の子供たちを長澤まさみ家で預かるようです。

このあと、長澤まさみ家(役名は鈴木佳恵)の娘、芽衣ちゃんが亡くなり、悲しみのあまり骨董市で見つけた人形を子供のように可愛がり、しかし次の子供ができるとその人形を押し入れの奥に閉じ込める。5歳になった娘はその人形と遊ぶようになるが、やがて人形が動き出し、…までが前半。

子供と同じくらいの大きさの人形が暴走しだす…というのは「ミーガン」に似ていますね。「ミーガン」はこのあと殺戮人形となりひたすら大暴れしますが、さすがは日本のホラー、そうはなりません。もう一捻りあります。「思った通りに物語が展開していく」安心感のある前半から、後半は「おいおいおい、どうなるんだよ?!」な怒涛の転がり方をしていく。

まず後半、新たな人物が登場します。呪禁師の神田(田中哲司)です。「じゅごんし」と読むそうでwikiによれば呪禁師とは『道教の影響を受けて成立し、呪術によって病気の原因となる邪気を祓う治療などを行った』とあります。

「来る」の柴田理恵とか、「夜を越える旅」の鏡越しに話す若者2人組など、近年のJホラーってこの手の「霊能者」のキャラが大変に良くってワクワクしますが、今回の田中哲司も大当たり!ゴツめの黒いセルフレーム眼鏡とスーツで登場。やたらでかい荷物は、人形を閉じ込めるための専用ケースです。頼りになりますがちょっとドジな一面も。

後半はその神田に導かれ、人形の呪いの謎を探るミステリーに。ホラーあるあるの「『はあ〜解決した!ホッとしたあ〜』〜か〜ら〜の!!」もありますんで、これから鑑賞される方は最後まで気を抜かれず!!

背中の傷と牛乳の謎

この作品、いわゆる「考察系」です。考察が止まらないようにできてます。現にワタシ、帰ってきてから5時間くらいずっと考えてるもんね。

そんで、ネタバレになるのであんまり書かないほうがいいとは思っていますが、どうしても気になるのが「真衣の背中の傷は誰がつけたのか?」ということと「なぜ牛乳が腐っていたのか?」ということ。

真衣の背中の傷について、長澤まさみは虐待を疑われます。でも劇中には長澤まさみが娘を憎んでいるような描写は全くないんです(と思う)。では傷をつけたのは、人形か、あるいは…??

そもそも人形があの家に来た時点で別の魂が入りり込んだ可能性はあるよなあ。あの家には人形に元々入っている悪霊の「あや」、亡くなって寂しい思いをしている芽衣、生存している真衣という3人の魂が住んでいると思ったほうが良さそうです。その3人が優しいお母さん(長澤まさみ)を独占したいがために唯一の実体である真依の身体を乗っ取っりあっている。真衣の背中の傷は「あや」か芽衣に乗っ取られた真衣自身がつけたものなのかも…?

それと腐っていた牛乳。長澤まさみがお客に出した紅茶に牛乳を入れようと口を開けるとヨーグルト状のものが出てくる。「昨日買ったばかりなのに…」。引きで撮っている何気ないシーンですが気になります。実はこのシークエンスで、長澤まさみはお客がリビングに入る前にさりげなく芽衣の仏壇のふたを閉じている。子供を亡くしたことを知られたくない、詮索されたくない、という気持ちでしょうが芽衣にとっては悲しいことです。だから牛乳を腐らせたのは芽衣なのでは?と思いました。親に愛されていた芽衣は悪霊ではありませんが、この牛乳といい、真衣の背中の傷といい(これは「あや」の可能性もありますが)、まだ分別のつかない年齢の霊は大切にしてあげないと…という話かと。いや、どうかな?

(2025/6/17追記)ネット上ではこのシーンではなくラストの「牛乳」についての考察が進んでいるようです。前述のシーンが前フリとすると、最後の牛乳は「腐っている」ことで「そこに霊がいる」意味になります。現に真衣のように見えたのは人形で、あやの霊が入っている。(あやと悪霊になってしまった芽衣が一緒になっているとも考えられます)

でも長澤まさみ夫妻は死んでおらず、生きているのでは?車の中にいる真衣にはパパとママが見えてたし。最後にタイトル「ドールハウス」がドーンと出ますよね。夫妻と人形が暮らすあの部屋が「ドールハウス」なのだと。

ベビーカーに人形を乗せて外出する夫婦。おそらくご近所では噂になっているのでしょうが、きっと悲しい事情があるのだろうと、誰も何も言わない。けれど、本当の事情とは想像を絶する恐ろしいものだった…というのが「ドールハウス」なのだと思います。

それから考察とは関係ありませんが、主な舞台はごく普通の一軒家と、引越し先のマンション。どちらも新しく明るく綺麗な家で、こういう場所をホラーの現場にすることにセンスを感じます。前述した神田のキャラクターもそうですが、全体的にポップ寄りの画作り。湿ってないから「怖さ」より「おもしろ」が勝つ。古典的題材のホラーに矢口監督の作家性が乗っかっていてとてもバランスの良い作品だと思います!

名作ホラー漫画「私の人形は良い人形」

取り留めなく書いていますが、もう一つ。すっかり人形の虜になった長澤まさみが歌うのが「私の人形は良い人形〜」という童謡。ギョッとしましたよ。なぜならこの歌、超怖いホラー漫画「私の人形は良い人形」の中にも出てくるんです。

「私の人形は良い人形」は「日出処の天使」で知られる山岸涼子先生作の恐怖漫画。先ほど映画で一番怖ったのが「呪怨」と書きましたが、漫画の中で一番怖かったのはまさにこの作品。本棚にあるけど今でも開くのちょっとやだもん。時代を超えて生き続ける呪いの人形にまつわる話で、当然原作&脚本も務めた矢口監督もこの作品を読んだかと。下にリンクを貼っておきますので、興味のある方はぜひどうぞ。

制作の東宝は昨年の「変な家」がヒット、上層部は「なんでヒットしたのかわからん!」と言っていたそうですが、それに続くヒット作になるのでは?!と期待しています。

「ドールハウス」はただいま公開中です〜!公式サイト貼っておきます!

dollhouse-movie.toho.co.jp

アメリカ版人形ホラー「ミーガン」。これはこれで面白かったです!

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低予算ながらアイデアと展開で面白くなっている!近年のJホラーの隠れた傑作「夜を越える旅」レビューはこちら。

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予想外のヒットとなった「変な家」は意外と怖い。B級感とJホラーオマージュに満ち満ちています。「ドールハウス」が気に入ったらこちらも好きかも!

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トラウマ級に怖いから覚悟してね…。山岸涼子の名作漫画「私の人形は良い人形」。

Kindle版はこちら。

文庫本はこちら。

この流れでもう一作、山岸涼子先生のとびきり怖い実話怪談「押し入れ」も紹介しています。

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