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【万事快調 オール・グリーンズ】感想(ネタバレなし)/エモとハイが同時にやってくる!あまりに良すぎる青春映画!

基本情報

公開年:2025年

監督&脚本:児山隆

キャスト:南沙良(朴秀美)出口夏希(矢口美流紅)吉田美月喜(岩隈真子)羽村仁成(藤木漢)黒崎煌代(ジャッキー)

上映時間:119分

あらすじ

<以下、公式サイトより引用>

ラッパーを夢見ながらも、学校にも家にも居場所を見いだせず鬱屈とした日々を送る朴秀美(南沙良)。

陸上部のエースで社交的スクールカースト上位に属しながらも、家庭では問題を抱えている映画好きの矢口美流紅(出口夏希)。

未来が見えない町で暮らすどん詰まりの日々の中、朴秀美が地元のラッパー佐藤(金子大地)の家で〇〇を手に入れる。その出来事をきっかけに、同級生で漫画に詳しい毒舌キャラ岩隈真子(吉田美月喜)、岩隈の後輩で漫画オタクの藤木漢(羽村仁成)らを仲間に引き入れ、同好会「オール・グリーンズ」を結成、〇〇の栽培に乗り出す。

人生を諦めるのはまだ早い!自分たちの夢をかなえるために、この町を出ていくには、一攫千金を狙うしかない!そして、学校の屋上で、禁断の課外活動がはじまる…!  

 

評価

うわあ〜!良かったです!すんごい良かった!湧き上がってきた感動が脳みそからこぼれ落ちる前にと、映画館から帰ってきた今すぐさま書いています。

「青春クライム」という好きなテイストということもありますが、

今!この日本で!閉塞感を突破するでもなく!かと言って流されるだけでもないガールズたちが!織りなす!このエモさ!一体なんなんでしょう?!

やたらと感嘆符をつけたところで興奮しか伝わらないかも知れませんが、もし気になっている方がいればすぐに映画館に駆け込んで欲しいです!

エモさに胸を押しつぶされそう…となりつつ訳わからんくらいハイになる!という類稀なる不思議な感情を味わうことができますよ!!!

では以下、ネタバレなしの感想です。事前情報はあまり入れないほうが良いと思うのでざっくり。

感想

公式サイトのあらすじで伏せ字になっているところはお察しの通り、【乾燥させて体内に取り入れると気持ち良くなる奇跡の草】です。(以下「草」と表現します)

原作は21歳の大学生のデビュー作で松本清張賞受賞作だそう。「女子高生が園芸同好会と称して学校の屋上で草を栽培して売り捌く」ってプロット自体が実にクール。

そんで驚いたのが映画の舞台が茨城県の東海村ということ。ご存知ない方はGoogleで「東海村」と打ってみてください。サジェストキーワードが「原発」「原発事故」「臨界事故」と原発のことしか出てこない。東海村は日本国内で初めて事故被曝による死亡者を出したことで有名な「原発の村」なのです。

劇中にもはっきりと「東海村」という言葉が出てくるし、印象的な場面で発電所の塔が見えます。その上で、女子高生の一人の父親は原発事故を遠因として亡くなっているという設定がなされ、さらには「こんなクソみたいな村から早く出て行きたい」と言わせています。

村としては嫌だろうな、まさかゲリラ撮影じゃないよな〜と思っていたら、エンドロールの協力クレジットに「東海村」と出てきたのでびっくりしました。ハンコ押した役場の人、懐が深いよねえ…。そして結果、この村のロケーションが実に良いのです。バックにどでかい原子力発電所が見える灰色の砂浜で3人の女子高校生がピクニックをするんですよ。画として出来上がってるじゃん。

追記:お風呂の中でつらつら考えていたのですが…ここが東海村だと分かるまでの冒頭からのストロークについて。学校で居場所のない主人公、朴秀美の姿を捉えた後、家に帰ると父親が息子を殴りつけている。父親はアル中っぽいし、食事姿も下品極まりないし、母親とばあちゃんは怯えているだけ。そんな家族の悲惨さが映されるのですが、家の中が乱雑なわりに建物自体は頑丈で綺麗に見えます。ここでちょっとした違和感を覚えるんですよね。だってこんなひどい家庭なんですよ、と秀美の不幸を表現したいならボロボロの木造家屋でいいじゃないですか?なんか妙だな〜と思っているとその後ここが東海村だと分かる。

けっこうギョッとします。

東海村のことを言っているわけではありませんが、原発を誘致する自治体は潤うという構造は一般的です。当然そのお金は住民にも還元されるでしょう。そんな構図が朴家の様子から透けて見えたのです。

それを考えると後に出てくるピクニックのカットの素晴らしさがより際立ちます。

背後には親世代の遺物=巨大な原発。その手前には吹けば飛ぶような折りたたみ机と椅子のセット。高校生はここで「この村を出たら何をするか」と将来の夢を語るのです。「巨大な旧世代の力に対し、自らの未来を武器に抗おうとする若者」という構図。何この完璧すぎる一枚画。泣ける。泣けるよ…。(追記ここまで)

さて、話を内容に戻すと、それぞれに問題を抱え「ここではないどこか」へ行こうとしている3人の女子高生が草を栽培し一攫千金を目指します。

DV父親を持つ朴秀美はラップに夢中。この子が冒頭で読んでいる本が「侍女の物語」。SFが好きで、ラッパー名の「ニューロマンサー」はウィリアム・ギブスンのサイバーパンク小説を由来にしています。

スクールカースト上位の矢口美流紅も父親が亡くなったショックでイカれてしまった母親と二人暮らし。映画が好きで、彼女の口からはゴダールやカサヴェテスの名前が出てくる。ちなみにタイトルの「万事快調」は1972年のゴダール作品です。ゴダールの中でもかなりマニアックな一本です。

3人目の岩隈真子は家が農家で男の子がいないので後継にされようとしている。漫画家を夢見ています。本人の嗜好ではありませんが、劇中には「リバーズ・エッジ」「ザ・ワールド・イズ・マイン」というワードが出てきます。

…どうです?!この設定。

ギブスンを読んだりゴダールを観る女子高校生が実際いるのかは分かりませが、彼女たちの口から出るこういった言葉たちに不思議と違和感はありません。抑圧の多い現実の中でもスマホに逃げ込めばどこまでも自分の好きなものをマニアックに追求できる…そんな時代なのですね。

でもその他大勢のクラスメイトや周囲にいる大人たちにはそこまで好きなものも追求したいものもない。彼女たちのマニアックな趣味嗜好から、そんな彼らの中に身を置かなくてはならない苛立ちが立ち上がってきます。そしてこの場所を「クソみてえな田舎」と吐き捨てるのですよ。いいなあ。良すぎ。

それと主役の南沙良さんをはじめ、役者陣も皆良いです。女子高生と言っても田舎の工業高校なんでやさぐれてるんです。高校生ながらストゼロのロング缶と紙タバコを嗜んでるし。何度か出てくる、友達を呼び止める時の「オイ!!」がいい。腹から出している本気の「オイ!」なんですよ。彼女たちは饒舌に語りますが、本当はそれ以上にもっともっと伝えたい言葉がある…ってのが「オイ!」で分かるんですよね。

さて、ストーリーはありきたりの青春映画をひっくり返そうとしています。まあ、草栽培って犯罪ですんで、そううまく行くはずもなく…。最後どうなるかぜひ観てみて下さい!

ガールズフットものに弱いワタシは中盤あたりからずっと泣いてたんですけど、かと言って全ての人が泣ける映画ではありません。でも、クソ田舎が嫌いな人、かつて青春と呼べるような青春がなかった人、夢があった人、現役女子高生、かつて高校生だった人…皆が面白くて楽しくて切なくなるとても素晴らしい映画だと思います!

「万事快調」という中身が想像しにくいタイトルから二の足を踏んでいる方もいるかも知れませんが、ホントこういう作品を紹介したくてレビューを書いているので、ここまで読んだ方はぜひ観に行ってください!マジで良い映画です!!

※未成年の飲酒喫煙が出てくるんでPG12ですが、ドラッグ映画ではありません。

公式サイト貼っておきますね〜。

www.culture-pub.jp