不穏度
50(100を満点として)
エマのダンス、笑っていいのかすら分かんないよ!
基本情報
公開年:2024年
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス エフティミス・フィリップ
キャスト:エマ・ストーン ジェシー・プレモンス ウィレム・デフォー マーガレット・クアリー ホン・チャウ
上映時間:161分
あらすじ
<以下、アマプラ紹介文より引用>
自分の人生を取り戻そうと格闘する男、海難事故から帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官、教祖になると定められた特別な能力を持つ人物を懸命に探す女を描く。
評価
面白かった!です!想像していたほど難解でもなかったし。監督が肩の力を抜いて好きなように作った作品だな、という感じがしました。それにしちゃあ長いけどな。
幾何学的で美しい室内のインテリア、美味しそうというより生々しくて不気味な料理のアップ、ここぞという場面で鳴り出す不協和音、そして「哀れなるものたち」同様踏んだり蹴ったりの酷い扱いを受けるエマ・ストーン…と、ヨルゴス・ランティモス的様式美が盛りだくさん!
お話は相変わらずぶっ飛んでいて意味不明ですが、今回は考察はナシです。
感想
原題は「カインド オブ カインドネス」。直訳すると「数々の親切心」。邦題の「憐れみの3章」のほうがわかりやすいかも知れません。ストーリーは繋がっているような、いないような感じの3つのエピソードからなります。
脚本はヨルゴス・ランティモス&エフティミス・フィリップ。このコンビは「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し」でお馴染み。
そして面白いのが、異なる3つの物語の異なる人物を、同一キャストが演じていること。
例えば第1章でエマ・ストーンが演じるのは主人公の上司の妻。第2章では海難事故から戻ってきた海洋生物学者、第3章ではカルト宗教信者です。
エマと同じくらい重要な役で出ているジェシー・プレモンスがいい。狡猾な人物にも気弱な善人にも見えます。マット・ディモンに似てるな〜と思ってたら彼の子役時代を演じたこともあるのだとか。それとキルティン・ダンストの夫で、「シビル・ウォー」で全米を震撼させた赤いサングラスの軍人でもあります。
では以下、1章〜3章それぞれの簡単なあらすじと感想です。
「パリスの審判」を思い起こさせる第1章
第1章は現代の寓話といえる分かりやすいお話。
主人公ロバート(ジェシー・プレモンス)は朝食のメニューから読む本、バーで注文する酒の種類、今夜妻と性交渉をするか否かまで上司のレイモンド(ウィレム・デフォー)に決められている。ある時、車を衝突させて「R.M.F.」という名の男を殺すよう命じられるが「さすがにそれはできない」と断ると「じゃあ、好きにしていい」と言われる。そもそも妻とはレイモンドの命令で付き合うようになったので、妻は出て行く。あらゆる選択肢に囲まれ自由になったロバートは困り果てる。ロバートにとって全てを決めてくれるレイモンドは神だったのです。
「管理されたがる人間の病理」は実に現代的ですが、せっかくヨルゴス・ランティモスなんで、無理やりギリシャ神話と結びつけるとしたら近いのは「パリスの審判」でしょうか。
権力のヘラ、勝利のアテナ、愛と美のアフロディーテの3女神の中から一番の美女を選べと言われたパリス。本当はゼウスが選択しないとならないのに面倒臭いから押し付けられたのですね。結局パリスはアフロディーテを選んだわけですが、それがきっかけでトロイ戦争が起き、パリスも毒矢で苦しみながら息を引き取ります。
何かを選ぶことは他の選択肢を捨てること。その責任と後悔の大きさは、人間ごときが背負えるものではないのです。
レイモンドの下に戻るためロバートは「R.M.F.」を引き殺し、赦しを得ます。これで明日から自分で選択しなくて良い人生に戻れる。まあ、気持ちは分かります。決定するのって疲れるんですよね…。ものすごく脳のリソースを食う感じ。でもこれからの世界はAIが「作業」をしてくれるので人間の仕事は命令・決定になっていく。この重圧から逃れるために命を差し出すロバートのような人物が増えてくるかも知れないなあ。そんな予言的なお話でもあるように思います。
あまりに意味不明な第2章
第2章。
もっとも意味不明で、実にヨルゴス・ランティモスらしいお話。「ニミック」と「ロブスター」に似ています。(下にレビュー貼っておきます!)
ダニエル(ジェシー・プレモンス)の妻リズ(エマ・ストーン)は海洋生物学者。海難事故に遭いますが無人島で生き延び、数日ぶりに帰宅する。しかし飼い猫は彼女を威嚇、嫌いだったチョコレートを貪り食べるなどまるで別人。疑惑を抱くダニエルですが、彼のほうが精神病扱いをされてしまいます。
別人リズはダニエルの望むままに自らの指を切り落とし、肝臓を抉り出す。そのリズが死んだ時に「本物の」リズが帰ってくる。果たしてリズは2人いたのか、精神を病んだダニエルの幻想なのか…?
身近で大切なその人は本当に代替不可能な人物なのか?という問いはヨルゴス・ランティモスが繰り返し描いているものですが、正直いまいち真意が分かりません。まあ、解説本とか読めば一発で解るのでしょうが、正解を教えてもらうのもつまらないのでもうしばらく考えたいなと思っています。
運命が生き返る第3章
第3章。
第1話と緩く繋がっているような気がします。映像的には一番面白かった!やたら運転の荒いエマが良い。
ウィレム・デフォーがセックスカルト宗教の教祖。エマが信者のエミリー役です。この教団は「死者を蘇らすことができる奇跡の女性」を探しています。エミリーは最後、ついにこの女性を見つけるのですが交通事故で死なせてしまう。
この女性が蘇らせた死者というのが1話で轢かれて死んだ「R.M.F.」なのです。
実は「R.M.F.」は2話にも登場。別人リズを救出、ヘリで運んでくる役です。
謎の男「R.M.F.」の生と死と生き返りによってエンドレスに繋がっているように思える物語。インド系の中年男性演じる「R.M.F.」とは誰なのか?そもそも何の略?…などなど考察したくなる部分ですが、ワタシは「人」ではなく糾える縄そのものだと思います。つまり運命ってヤツです。
異なる別々の話が集結していく感じは「マグノリア」を思い出しましたが、ヨルゴス・ランティモスが撮るとこんな不穏な映画になるんですね…。
シンプルな構図のスッキリした画作りはいつもの感じですが、今回は特に色使いの美しさに目を惹かれました。深い水色の壁紙の前に山吹色の服の男、パープルのダッジチャレンジャー(車)から降りるエマのブラウンのスーツなど、コントラストが美しい2色が映えるようになっている。だいぶこだわった部分ではないでしょうか?
それと画面の中に高低差があんまりなかったせいか、全体的にのっぺりしていて印象に残るワンシーンはなかったかなあ。
今週末から公開のヨルゴス・ランティモス作品「ブゴニア」も楽しみにしています。観たら感想書きますね〜。
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ヨルゴス・ランティモス作品、お勧め順レビュー
不穏で不気味で意味不明!だけど目が離せないヨルゴス・ランティモス作品、お勧め順にレビュー貼っておきます。
「聖なる鹿殺し」
区切る部分は「聖なる鹿」「殺し」です。ギリシャ神話を下敷きにしたヨルゴス・ランティモス入門編とも言える一本。バリー・コーガンがスパゲッティを食べる姿だけでも見てください。こんなに人を不快にさせる食い方があるんか?!とびっくりしますよ。
ロブスター
これまた気持ち悪い話です。パートナーがいないと人として認められない世界。期限までにパートナーを見つけられないと動物にされちゃうんですってよ、どうします?!「憐れみの3章」の第2章には「犬が支配する世界」が出てきます。世界観繋がってます。
ニミック(NIMIC)
12分の短編なので観やすいのでお勧め…しようと思ったらアマプラで配信が切れていました(2026/2/12現在)。レビューだけでも観てって下さい。監督の意図とは違うかも知れませんが、とあるギリシャ由来の逸話を思い出したので絡めて書いてます。
哀れなるものたち
エマ・ストーンだし、美しいし、評価されたし、それは解るんだけど…という一本。ハリウッド大作なだけに監督が本当にやりたかったテーマなのか?が疑問です。でも良いです。エロいシーン多め。
