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不穏映画が大好物のアラフィフ女 感想と考察が入り混じる映画レビュー。不穏度を数値化しています

【アギーレ/神の怒り】感想(ネタバレあり)/渦巻く湿度と疲労と暴力に熱出そう…!

 

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不穏度

35(100を満点として)

フレームの中も、そして外も不穏

※不穏度100映画はこちらにまとめています

基本情報

公開年:1983年(日本公開年。ドイツでの公開は1972年)

監督&脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク

キャスト:クラウス・キンスキー (ロペ・デ・アギーレ)エレナ・ロホ(イネス・デ・アティエンサ)デル・ネグロ (ガスパール・デ・カルバハル) ルイ・ゲーハ(ペドロ・デ・ウルスア)

上映時間:93分

あらすじ

<以下アマプラ紹介文より引用>

ヴェルナー・ヘルツォーク監督の初期の代表作。南米の秘境で一大ロケを敢行し、自らの狂気じみた夢によって破滅していく男の運命を迫力の映像で描く。スペインの探検隊が、南アメリカのアンデス地方に伝わる黄金郷“エル・ドラド”を目指し、過酷な道のりを進んでいた。ジャングルは劣悪な環境で、食糧不足も心配される。そこで分遣隊が送られることになり、隊長のウルスアと、副隊長のアギーレ、さらには奴隷や神父、女性たちも同行することに。ところが奥地に進むにつれて分遣隊の面々は次々と命を落とし、ウルスアはこれ以上進むのを止めようとする。しかしアギーレが反発し…。

評価

うぇっぷ…(ゲップ音)

…噂には聞いていましたが強烈ですね。すごく面白いんですが、観る人を選ぶ傑作かと。映っているのは密林の深い緑と泥川、ファーストシーンからすでに「2〜3人、殺してるやろ?」と思える強烈な顔面のクラウス・キンスキー。70年代の映画ですんでCGはなく、全て実写ってところもまた恐ろしい。映像そのものが暴力。おそらく撮影の現場も彼らの道中と同じように混乱と疲労と暴力が渦巻いていたのではないか…と思わせる。93分と短かったからよかったものの、120分以上だったら絶対熱出してましたよ!

凄まじく強烈な映像体験で、若い時に観てたら生涯の1本になってたと思いますが、今この時代に評価するのは難しい作品でもあります。では以下、なぜ難しいのか?も含めての感想です〜(ネタバレあり!)

感想

ヴェルナー・ヘルツォーク監督は「フィッツカラルド」という作品を観たことがあります。こちらも「アギーレ」同様、アマゾンを舞台にして、オペラのために船で山を登るという凄まじくも美しく狂った作品。主演も同じくクラウス・キンスキーです。人を拒む鬱蒼とした密林と、主人公の白いスーツ、原住民の子どもの美しい歌声が鮮烈に残っています。

1942年生まれのヘルツォークはニュー・ジャーマン・シネマの代表的な監督だそうですが、45年生まれのヴィム・ヴェンダース(ベルリン・天使の詩 パーフェクト・デイズ)とは対照的な作風ですね。

さて、「アギーレ/神の怒り」ですが、アギーレとは実在の人物。スペインが南米大陸に上陸した当時、エル・ドラドを探しアマゾン川の踏破に成功、大西洋に到達。そのままスペイン王室に反旗を翻したのだそうです。

映画でこのアギーレを演じるのが「怪優」クラウス・キンスキー。もうね、顔面が暴力だよ!1926年ポーランド生まれで、第二次大戦中はドイツ兵として従軍しています。その経験がどんなものだったかは分かりませんが、フィルムから滲み出るような血と汗の匂いは従軍経験から来ているのでは?と想像してしまいます。

そして「今の時代に評価しにくい」というのはまさに彼の存在。小児性愛者であったことを自ら告白しており、死後、娘に性的虐待を加えていたことを暴露されています。

同作の素晴らしさは、彼から滲み出る残虐性があってのこと。作品に罪はないとはいえ、あまりにも…と思ってしまうのも事実。(劇中、アギーレはいたいけな15歳の娘を溺愛しており分遣隊にも同行させるんですよ…)うーん…この問題については一旦考えを保留にしておきます…。

そして物語は、エル・ドラドを目指す一行とともに進みます。密林の泥川を粗末な筏で下り、その間に何人もが命を落とし、暴君・アギーレが主権を握る。最後は熱病でほぼ全てが死に絶え、筏の上には自らを「神」と称するアギーレと、小猿の群れだけになります。

軟弱な貴族や現地民、日和見宣教師と女たち等という弱小チームの中で【神】を名乗った男、アギーレ。その卑小さも含めて、クラウス・キンスキーにピッタリやな…という感じがします。この人、わりと身長低いんですよね。この顔で大男だったら敵方の王役なんでしょうが、弱い者たちを虐げて権力の座に着く役柄に彼の身体性が重なります。その上足を引摺るような演技をしており、この設定もまたアギーレという男の内面の複雑さを表現している。

困難を極めるジャングルの行軍というストーリーに、湿気や撮影隊の疲労といった本来はフィルムに映らないものまでなぜかクッキリ映っていて、観ているほうもグッタリ疲れます。観たのはしばらく前ですが、今でもはっきり思い出せる禍々しくも美しいシーンがいくつもある。こういうの、「映像体験」って言うんでしょうね。

それと最後のほうに木の上に帆船が引っかかっているシーンがありました。ヘルツォークは本当に「ありえない場所に船がある」のが好きなんだろうなあ。

「フィッツカラルド」も素晴らしい作品なので、そのうち書きたいと思います。

「アギーレ/神の怒り」はアマプラで観られます〜。

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アギーレについて調べていて見つけたドキュメンタリー「キンスキー、我が最愛の敵」。数々のタッグを組んだキンスキーとヘルツォーク。強烈な個性のキンスキーを使いこなすヘルツォークもまたトチ狂った人です。撮影中、その傍若無人ぶりにアマゾンの原住民等から「俺らがアイツ(キンスキー)を殺そうか?」と言われた監督、のちに「あの時殺しときゃよかった」と言ったとか言わないとかの逸話がたくさん!(ひょえ〜!)

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