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【アプレンティス ドナルド・トランプの創り方】感想(ネタバレあり)/師匠の涙は何だったのか?

 

基本情報

公開年:2025年

監督:アリ・アッバシ

脚本:ガブリエル・シャーマン

キャスト:セバスチャン・スタン(ドナルド・トランプ)ジェレミー・ストロング(ロイ・コーン)マリア・バカローヴァ(イヴァナ・トランプ)

上映時間:123分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

20代のドナルド・トランプは危機に瀕していた。不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ、破産寸前まで追い込まれていたのだ。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーンと出会う。大統領を含む大物顧客を抱え、勝つためには人の道に外れた手段を平気で選ぶ冷酷な男だ。そんなコーンが“ナイーブなお坊ちゃん”だったトランプを気に入り、〈勝つための3つのルール〉を伝授し洗練された人物へと仕立てあげる。やがてトランプは数々の大事業を成功させ、コーンさえ思いもよらない怪物へと変貌していく……。

評価

面白かった!!コメディ寄りかと思ったらそうではなく、見終わった後しんみりとするというか、あまりハッピーな気分にはならない映画です。

アメリカではドナルド・トランプが全米公開を阻止しようとしたそうですが、ワタシはどっちかっつうとこのモンスターを人間としてちょっと好きになってしまいましたよ。描かれるのは、野心とコンプレックスでいっぱいいっぱいの若きアメリカ人男性が「怪物」になるまで。怪物になってもなお、まだ人の心を忘れないところが不憫でね…。「強い大統領」を演じている今もツライんだろうねえ…。

ドナルド・トランプという一人の人間を通じて人間の弱さ、生きることの辛さ、師弟関係の尊さ、男性社会における「強さ」とは何か?などなど人間社会の諸々を見せてくれる、実に面白い作品です。では以下、感想です!(実話ものなのでネタバレありです!)

感想

監督はイラン出身のアリ・アッバシ。カンヌで注目されたそうですが、他の作品は未見です。同作が面白いのはもちろん監督の手腕もあるのでしょうが、もうこれは企画の勝利です。題材がドナルド・トランプ。彼に影響を与えたロイ・コーンとの関係を中心に若き日を描く。年代は1973年〜86年あたり。トランプ27歳〜40歳の頃です。面白くならんはずないでしょ。

お恥ずかしながらロイ・コーンという人のことを今回初めて知りましたが、トンデモな人物なんですね〜。検察官時代は赤狩りの急先鋒に。弁護士に転身してからはニクソンやレーガンと親交を結び、顧客はイタリアンマフィア。有名クラブに出入りするゴシップ紙の常連でもあった。彼が唱えるのは「全てはアメリカのため」。極右ですな。

そしてまだウブだったトランプに授ける彼独自の「3つのルール」が「攻撃、攻撃、攻撃」「非は絶対認めない」「(ほんとは負けてても)勝利を主張し続けろ」というもの。いや、すごいね。モラルはどこ行ったん?まさに今のトランプだし、今これを実践している悪党も山ほどいる。

さてトランプはロイを師と仰ぎ、3つのルールを実践しながらのし上がっていきます。2人が初めて出会うクラブのシーンが良いです。父親が経営する不動産会社を引き継いだトランプ。そのおかげでセレブ御用達クラブの会員になることができて、「このクラブの会員には〇〇や××もいるんだぜ。俺は最年少で会員になれたんだ」と女の子に自慢。でも女の子に「〇〇や××の名前を出すなんて、あんた自分に自信ないの?」とピシャリと言われ、アタフタ。

そんなトランプを向こうのテーブルから鋭い眼差しで見ている男がいる。それがロイです。

ロイはすぐにトランプの伸び代を見抜く。大きな野心とそれと同じくらいの父親へのコンプレックスと嫌悪を抱いていることも。

トランプ家の食卓も描かれますが、成功者である父は息子たちに高圧的な態度をとっているんですよね。兄は反発してパイロットになり、弟であるトランプが家業を継ぐ。彼が本当にやりたかったことなのか疑問です。

この実父を嫌悪する気持ちがロイを師にする。トランプにとってロイは自分を認めてくれてやる気を引き出してくれる理想の父親です。

んでですね…

ロイという人物はとても複雑な人で、ゲイであることを隠してはいないのですが、敵対する相手がゲイだと知ると「ゲイだとバラすぞ」と脅す。最後はエイズで亡くなるのですが、最後まで認めず肝臓がんだと言い張ります。

ロイは明らかに若くハンサムなトランプに性的な魅力を感じています。異性愛者のトランプもそれに気づいている。でも逃げ出そうとはしないし、蔑むこともしない。それ以上にロイから得るものが多いからです。

彼らは似たもの同士です。高圧的な父親のせいで自己肯定感が低いトランプと、ゲイである自分を認められないロイ。でも虚勢は張れるだけ張る。2人の間に流れる「共犯性」のようなものが、一つバランスを崩すと危うくなるこの関係を支えています。

そしてトランプはロイを超え、師匠を捨てる。でも捨てきれないところに人間性が出てるんですよね。エイズで死期の迫った車椅子のロイをフロリダに招待し、誕生日を祝ってあげるんです。

プレゼントはティファニーのカフスボタン。「ほら、ダイヤが付いてるんだよ。まだ59歳、これからだよ」。ところがその時すでにトランプと仲の悪くなっていた妻のイヴァナがこっそり「これ、ジルコニアよ。あいつサイテーでしょ?」とバラす。

ロイはそれを聞いた後、泣くんですよ。この涙はいったい何でしょうか?ロイの哲学を実践してアメリカ1のビジネスマンになったトランプ。彼が創った最高傑作と言えましょう。自分の作品を人生の最後に仰ぎ見ることができた嬉し涙か、それとも手塩にかけた弟子からのプレゼントが安物のジルコニアだったと知っての悔し涙なのか…。

観ているこちらも様々な感情が入り混じる涙でしたよ…。

そして数日後に亡くなるロイ。自伝の出版のためにライターを呼びつけたトランプは、もう誰もが知る「今のトランプ」になっていた…というところで映画は終わります。

トランプを演じたセバスチャン・スタン、ロイを演じたジェレミー・ストロングは主演男優賞、助演男優賞で共にアカデミー賞にノミネートされています。2人とも本当に素晴らしいです。セバスチャン・スタン、最後はトランプのモノマネ入ってます!

大金持ちになったとて、巨大な権力を持ったとて、人生は悲しく辛いのだなあ…、という暗澹たる気持ちになること請け合いですが、とても面白い映画でもあります。さらに、トランプを大統領に選んだアメリカとはどんな国かを理解するのに役立つかもしれません。

ちなみに「アプレンティス」とは「見習い」「徒弟」の意味。まんまでしょ?00年代にトランプがMCを務めたリアリティショーのタイトルでもあります。

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実話もの、伝記ものがお好きな方におすすめのレビュー貼っておきます〜。

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