不穏度
90(100を満点として)
目が覚めた場所が現実だって誰が決めた?
※100点をつけた殿堂入り不穏映画はこちら
基本情報
公開年:1997年
監督:今敏
脚本:村井さだゆき
キャスト:岩男潤子 (霧越未麻/きりごえ みま)松本梨香(日高ルミ)辻親八(田所)
篠原恵美(落合恵理)
上映時間:81分
あらすじ
<以下、アマプラの紹介文より引用>
人気絶頂のアイドルグループを突如脱退し女優への転身をはかった霧越未麻。ところが、彼女の思惑とは裏腹に過激なグラビアやTVドラマへの仕事が舞い込んでくる。周囲の急激な変化に困惑する未麻。そんな折り、彼女の仕事の関係者が犠牲者となった殺人事件が多発する。そして、ファンからは「裏切り者」のメッセージが...。追い詰められた彼女の前に今度は“もうひとりの未麻”が現れる。自分は狂ってしまったのか?これは夢なのだろうか?連続殺人犯は自分なのか?次第に現実と虚構の区別がつかなくなっていく未麻。果たして彼女の見た“もう一人の自分”の正体とは一体...。
評価
すんごく面白かったです!
漫画家大友克洋のアシスタントとしてキャリアをスタートさせた今敏監督は「千年女優」「パプリカ」などでも「現実と虚構」をテーマに据えた作品作りをしています。
アニメ監督デビュー作である今作も現実と虚構が入り混じるサイコミステリーなんだけど、虚構レイヤーが一層に留まらないところがすごい。「レクイエム・フォー・ドリーム」や「ブラックスワン」で知られるダーレン・アロノフスキーをはじめ、多くのクリエイターに影響を与えているというのもうなずけます。
芸能界というキラキラな場所が舞台なのにサイコでダーク。90年代後半の日本からこのような作品が生まれたのは必然とも思えます。
では以下、感想です〜。最後、ワタシは割とびっくりしたのでこれから観る方のためにネタバレなし!
感想
鏡の国へすら行けない女優
原作はサイコ野郎がB級アイドルのストーカーになるというお話だそう。北野誠のサイキック青年団の竹内義和氏が原作者と知ってびっくり。
ただ映画はあくまでその一部を取り入れただけでかなり脚色されているようです。
97年公開の作品とあって、真っ先に95年のオウム真理教の事件と阪神淡路大震災の影響が頭に浮かびました。盲目的なアイドルマニアの不気味さと、目を背けたくなるほどの暴力描写がすごいんですもの。でも企画が立ち上がったのは94年。95年には脚本はすでに出来上がっていたのかも知れません。
さて、さきほど「虚構のレイヤーが一層ではない」と書きましたが、名探偵津田風に言えば作品中には1の世界と2の世界、そして3の世界があり、同時進行で進んでいきます。1の世界は現実。霧越未麻がアイドルを辞め、女優への第一歩を踏み出す。2の世界はその現実世界とつながっている未麻の幻覚。ガラス、あるいは鏡に映った未麻の姿が幾度となく描かれるのですが、ガラスの向こうの未麻が突然アイドル時代の姿になって言う。「アイドルでいたほうが良かったのに」と。
このくだり、「鏡の国のアリス」を思い出しますが、アリスでは鏡の国は全てが「さかさま」です。女優のさかさまはおそらくアイドルではなく一般人でしょうから、今作での「鏡の国」はさかさまとは言えません。むしろ、鏡の国にすら行けず、隙間に落ちてしまったような不安感を覚えます。女優へと脱皮することに迷いもあった未麻ですから、鏡の中の自分は彼女の深層心理の現れなのでしょう。
そして3の世界は未麻が出演するドラマの世界です。こんなの地上波でOAできるのかよ?!ってくらいの血みどろ猟奇サスペンス。
この1〜3の世界を行き来する未麻と私たち観客の神経はだんだんすり減っていく。未麻は何度も自宅のベッドの上で目を覚ますのですが、目を覚ますということはその前のシークエンスは夢だということになります。目覚めて現実の朝が始まったと思ったら、また目覚める。こうして入れ子のように夢と現実の境目がなくなっていきます。そしてとうとう3のドラマの中のお話だと思っていた猟奇殺人事件が1の現実に起きる。もう何が何だか分からないのに目が離せないのです。
レイティングはR-15。3の世界のレイプシーンは真に迫り過ぎかなりしんどい。ヌード写真撮影のシーンも胸糞悪い。実写化の話も度々出るようですが、アニメだからまだ耐えられるんじゃないかってくらい女性にとって衝撃的な場面が多いです。苦手な方は要注意です。
「私は本物だよ」
これは最後のセリフ。猟奇殺人事件の犯人が捕まり、一件落着ののちに未麻がバックミラーに映る自分に向かって言うんですが、妙に明るいアイドル然とした言い方なんですよ。文字で表現すると「わたしは本物だよ☆」みたいな。この違和感が本作を忘れがたいものにしています。ここにも鏡が出てくるし。
虚構と現実を行き来する主人公が「少女」だということがこの映画のポイントです。付き合う男が変わるたびにファッションやメイクが見違えるほど変わる女の子っていますけど、少女とは変態しやすいもの。今この瞬間本物だと思った自身も、数日後に偽物になる。
つまり全編を通して、少女が変態を繰り返し、その過程で自分自身と周囲の人間を抹消していく成長の過程を描いた、いわば少女の想像の世界を延々と見せられたとも言えるわけです。
まあこれは極端な解釈ですが、最後にぶっ込まれる「私は本物だよ」という謎めいた言葉にはそんな想像をさせる力があるのですよ。
いや〜、よく出来てんなあ。
そんで90年代の映画って面白いよなあ、と改めて思いました。世紀末、インターネット黎明期、日本国内で言えば未曾有の大災害とテロが起きた90年代。ざわざわした社会の雰囲気がそのまま閉じ込められ、しかも日本だからアニメで作られた。邦画を代表する稀有な一本だと思います。今敏監督作品、「東京ゴッドファーザーズ」しか観たことないんだけど、他も観てみようと思います〜。(実は「千年女優」も「パプリカ」も未見なのよ)ちなみに「東京ゴッドファーザーズ」もとても面白くいい話でした!
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今敏監督の師匠に当たる大友克洋監督の「AKIRA」レビューはこちら。どうもこういう絵柄好きなんだよな〜。

