矢口史靖監督・長澤まさみ主演の「ドールハウス」レビューがおかげさまでよく読まれています。その際、ストーリーが似てる漫画として山岸涼子先生の「わたしの人形は良い人形」を紹介させていただきました。
同作は間違いなくこれまで読んだ漫画の中で一番怖かったのですが、これと恐怖度が並ぶ一作が「押し入れ」です。初めて読んだ時、すでにいい大人だったんですけど、まさに押し入れのある古いマンションで一人暮らしをしていたこともあって、もう怖くて怖くてトイレ行けなかったもんね…。
説明するまでもありませんが、山岸涼子先生はバレエ漫画の「アラベスク」、聖徳太子の若き日に大胆にアプローチした「日出処の天子」で知られる少女漫画の大家です。短編に傑作と言われるものが多く、一人の女性が狂気に至るまでを描いた「天人唐草」はよく知られています。女性の内面に切り込んだ、うすら怖い胸糞の悪い話が多いのも特徴。
そして、そんな物語を語る絵がまた美しく意味深くて怖い。ごく細い線で描かれた人物たちはピリピリと神経質そう。背景はほぼ描き込まれておらず、余白の多い日本画のような画面構成です。
そんな山岸先生の短編の中に、幾つか実話を元に創作されたものがあります。「知人から聞いたんだけど〜」と前置きがあるのはだいたい不思議な話か怖い話。怖がりなのに怪談が大好きなのだそうで(カワイイ)、自然とそんな話が集まってくるのだとか。
「押し入れ」もそういった「実話もの」の一つ。「話してくれた知人」とはなんと、「ガラスの仮面」の美内すずえ先生!
お話は実に古典的です。1960年代当時、美内先生のアシスタントの女性がお姉さんと二人でアパートに住んでいました。そのアパートの押し入れに「何かがいる」。今と違って不動産屋の告知義務がない時代。恐怖に慄いた2人が不動産屋を問い詰めると…?!といったもの。
正直、「実話怪談」の流行っている現代では珍しくもないありがちな話です。でも、今再読してもやっぱり薄気味悪い。絵をおどろおどろしくして怖くさせるのではなく、いつものシンプルな線と背景で恐怖感を煽っている。
面白いのは、描くにあたってあえて美内先生に「あの話ってどうだったんだっけ?」と細部を聞かなかったこと。うろ覚えの話に、聞いた時の恐怖感を乗っけたオリジナルの作品になっているのです。
…と、「わたしの人形は良い人形」の流れでぜひ紹介したくて珍しく本のレビューなど書いてみました。
「押し入れ」はアマゾンで購入できます。同時収録の「夜の馬」「メディア」「雨女」も胸糞悪くて良いです!
「わたしの人形は良い人形」Kindle版はこちら
「わたしの人形は良い人形」文庫本はこちら
むっちゃ面白怖かった「ドールハウス」のレビューはこちらです〜。