不穏度
30(100を満点として)
基本情報
公開:2023年
監督:是枝裕和(他監督作品:万引き家族 誰も知らない)
脚本:坂元裕二(他作品:花束みたいな恋をした)
キャスト:安藤サクラ(麦野早織)永山瑛太(保利/教師)黒川想矢(麦野湊/早織の息子)柊木陽太(星川依里/湊のクラスメイト)
上映時間:126分
あらすじ
<以下、公式サイトより引用>
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した…
カンヌで脚本賞とクィア・パルム賞を受賞したことでも話題の「怪物」観てきましたよ。田舎のイオンシネマ、平日の昼間とあって客はまばら、高齢者多めでした。
さて、映画好きを標榜しながら大変こっ恥ずかしい告白をしますと、是枝作品ほぼ観たことありません。ん〜特に理由はないんですけど食指が動かないと言いますか…。一番初めに観たのがなぜか「海街diary」でしてとくに面白いと思わなかったというか何も覚えてないっちゅうか。脚本の坂元裕二氏のほうは、ドラマ「カルテット」「大豆田とわこと三人の元夫」映画「花束みたいな恋をした」あたりを楽しく観ましたが熱く語るほどのファンではないっす。そんなワタシが「怪物」を観た感想は「面白かった!」です。ネット上では賛否あり、Twitterではかなり厳しい批判の声も飛んでいましたが、まず単純にお話が面白かったです。
以下感想、なるべくネタバレさせないようにしますがどうしてもストーリーに触れてしまう部分もあるのでイヤな方はここで引き返すことをお勧めします!
感想
人間界とは「そういうもの」だ
「話が面白かった」のは謎解きミステリー的流れになっているからです。地方都市の小学校で起きた「先生による生徒いじめ問題」。第一幕は母親から見た光景。第二幕は先生から見た光景。最後は子供から見た光景がそれぞれ描かれます。一つの出来事を主観を変えることにより「他人から見たら違和感のあるあの行動はやはりこういう理由があったのか〜」というスッキリ感や「え、あの時のあの人の行動はこういう理由だったんだ!意外!」という裏切りによる驚きを体験できるので、飽きずに観られるということです。それに対していくつか「こんな繊細な問題をエンタメとして消費するな」という批判を見ました。でも仕方ないですよね?映画なんだもの。リアルじゃないからね。
確かに扱う問題は繊細です。しかしそれは私たちの日常でもあります。比較的性格の良い大人も性格の良い子供も出てくるし、比較的クソみたいな大人もクソガキもいます。だいたいこれが世界だし、人は日々他人の言葉に傷つけられたり人を傷つけたりしながら生きています。そういう人間社会の営みをとても丁寧に描いた作品だな、と思いましたよ。ただ子供は人間界にまだ馴染みが少ないからかわいそうだしモヤっとするよね、っていう。まあ子供界でも壮絶な傷つけ合いは起きているのですが。
ちょい脱線してワタクシごとになりますが…ワタシは子供がいません。なぜ子供を欲しいと思わなかったかの一因となる母親の口癖をよく覚えています。しかし母親は自分の言ったことを覚えていません。そして同じ言葉を聞いて育った姉は子供を切望し産み育てています。なんですかねコレ?ワタシも姉も傷つきましたがその後とった行動はまったく別。言葉とは発する側より受け取る側の問題なのでしょうか?…とはいえ考えても仕方ないし、ワタシはもはや「そういうものだ」と思っています。
…そんなことをまた思い出した作品でした。
クィア・パルム賞は妥当なのか?
「ネタバレ厳禁作品だそうだけど『クィア・パルム賞受賞』ってのがネタバレなのでは?」とTwitterに書きましたがその通りでした、ハイ。そしてもう一つ思ったのが「これクィア作品なのか?」ということ。
※クィア・パルム賞については2019年の受賞作「燃ゆる女の肖像」のレビューを書いた時に調べています〜
これこそ繊細な問題なので滅多なことは書けませんが…同作に出てくる2人の子供は機能不全家庭で育つが故に共鳴しあい秘密基地で仲良く遊んでいます。よくあることです。たまたま性に目覚めるお年頃でもあった、という話のようにワタシは思いました。子供の性自認の研究ってどこまで進んでるのかな、なんて興味は持ちましたけど。それとこの流れで言ってしまうと、瑛太演じる教員が何気なく発し2人はそれに傷つく、という言葉があります。今ってかなりジェンダー教育進んでいると思いますが、若い教師が言いますかね?あんな言葉。そこはかなり違和感を感じました。
ラストについての解釈
さて、問題のラストについて。
そこまでとても丁寧にほつれなく描かれていた時系列が突然破城します。それと廃トンネルと廃列車。列車の中に2人が飾り付けるのは土星のオブジェや星形の電飾です。モチーフは「銀河鉄道の夜」でしょう。
天使のような繊細な子供(2人の役者とても良いです!)は薄汚い人間界に馴染めなかった…そういうお話だと解釈しました。傷つくことに耐えられない、誰も傷つけたくなのなら人間界から退場する以外ないのです。
これをハッピーエンドと捉えるかバッドエンドと捉えるかはその人の生死感によって異なります。ワタシはバッドエンドだと思いましたよ。主人公たちが大人ならハッピーエンドですけどね。さすがにあんまりです…。
毎度ながら素晴らしい安藤サクラ、あの不気味さが上手く作用した永山瑛太、校長先生役の田中裕子、それとチョイ役で出てくる野呂佳代、何よりも子供の2人!と、役者陣がすばらしく映画として「面白い」作品でした〜。それと「音楽・坂本龍一」がさかんに宣伝されていましたが、音楽の使い方はあまりにありきたりすぎてビミョー…と思いました…。
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