映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【ベルリン・天使の詩】感想と考察/衝撃の特典映像!天使はパイを投げた


ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版 [DVD]

 基本情報

公開年:1988年(日本公開年)

監督:ヴィム・ヴェンダース(他作品「パリ・テキサス」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」等)

キャスト:ブルーノ・ガンツ(天使ダミエル) ソルヴェーグ・ドマルタン(マリオン)  オットー・ザンダー(天使カシエル) クルト・ボイス(ホメロス) ピーター・フォーク(元天使)

上映時間:128分

 あらすじ

<以下「ベルリン・天使の唄」公式サイトより引用>

天使ダミエルは、人々の心の声を聞き、彼らの苦悩に寄り添っている。ある日、孤独を抱えたサーカスの舞姫マリオンに出会い、彼女に恋をしたダミエルは、天界から人間の世界に降りることを決意する……。

壁崩壊以前のベルリンを舞台に、天使の世界をモノクロ、人間の世界をカラーで表現した映像美と、後にノーベル賞作家となるペーター・ハントケによる詩的な脚本で紡がれる壮大な映像詩。

第40回カンヌ国際映画祭 監督賞受賞

 感想

80年代ミニシアターを牽引した2人の「ジム」

「ベルリン・天使の詩」のDVDを持っています。正直に言いましょう。再生した3回のうち2回は寝落ちしています。そんなお前が言うなというご意見もございましょうが、それでもこの作品感動的と言わざるを得ないのですよ。さて、1980年代後半ミニシアターでかかる映画には2人の「ジム」がいました。ジム(Jim)・ジャームッシュ監督とジム(Wim)・ヴェンダース監督です。

ジム・ジャームッシュ(1953〜)の80年代の作品といえば「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「ダウンバイロー」「ミステリートレイン」など。

そしてジム・ヴェンダース(1945〜)の80年代の作品といえば「パリ・テキサス」「東京画」。

方やアメリカ人監督、方やドイツ人監督の違いはありますが、こうして並べてそれぞれの映画を思い浮かべてみるとなんとも切ない気分になるというか、2人とも常に「異邦人」の目線で映画を撮っているのがわかります。そんな映画が東洋の片隅でも人気になったというのは、80年代後半はテクノロジーの発達や価値観の多様化によって誰もが「疎外感」を感じはじめた時代だったのかも知れません。

最大限の生の肯定かな

さて「ベルリン・天使の詩」では、おじさん天使がベルリンの街を見下ろし人々の心の声を聞いています。決して人々と共に嘆いたり笑ったりはしない「外野の人=異邦人」です。だから『天使』なのですが、空中ブランコ乗りのマリオンに恋したダミエルは、どんなに苦しく泥まみれになろうと「実際にそれを感じてみたい」と、地上に降りる決意をします。ダミエルが地上に降りると画面はモノクロから鮮やかなカラーになります。

あの寒々しいベルリンですら地上とは天使も羨むようなキラキラとした輝きに満ちた世界だったのですね。「生きること」をこんなにも肯定するストーリーがありましょうか(涙)地上に降りたダミエル、やはり地上に降りた「先輩の元天使」に会うのですが、それがピーター・フォーク。「刑事コロンボ」ですよ。ピーター・フォークがピーター・フォークの役で出ていて、それがとても「ほんとの天使」っぽくて良い。ピーター・フォークが亡くなった時、「あ、また天使に戻ったんだな」って思いましたもん。そして本作の主演、ブルーノ・ガンツ(ダミエル)もまた2019年に天使になってしまいましたね…。

さて、物語は地上に降りてマリオンとの愛を育むダミエルと対照的に、いつものように天上で図書館の詩人を見守るカシエルの姿を見せて幕を閉じます。ところがところが。

 驚きのパイ投げシーンで何を言いたかったのか?

私が持っているDVD(東北新社ベストセレクション・ベルリン・天使の詩デジタル•ニューマスター版 ※下にリンク貼っておきます)の特典映像には衝撃的な「もう一つのエンディング」があるのです。それは、ダミエルと、ダミエルが恋した女性マリオン、そしてカシエルの三人でパイ投げをするというシーン。

 

ヴェンダース監督の抑揚のない声で解説が語られる特典映像未公開シーンは本編以上に地味。ワタシはソファに足を乗せて寝っ転がりつつ、うとうとと観ていたわけですが、突然のこのシーンにおいおいおいおいおいなんじゃこりゃ?!って漫画みたいにガバッと起きましたよ。監督も「観ている人は驚くと思うけど」ってさらっと言っています。なんでも20年間「パイ投げを撮る」のが夢だったそうでやってみたとのこと。特典映像では、どうせもう出すところないし、フィルム傷んじゃってるしという勢いで延々と様々な角度から撮ったパイ投げ(正確にはケーキ投げ)シーンが続きます。

で、呆然と観ているうちに気づくわけです。味、痛み、恐怖、快楽、罪悪感…そんな多くの「地上にいるからこその感覚」をひっくるめて味わえる何か…それが「パイ投げ」なのではないか、と。

確かに。二人の天使は本当に楽しそうにやっています。パイ投げ。すげえ。パイ投げ。地上に降りた天使がはじめにすべきこと。パイ投げ。

これが本当のエンディングでもぜんぜん良いと思うくらい多幸感溢れるシーンだし、物語のテーマもよくわかります。この「幻のエンディング」を観たことで改めてはあ〜イイ映画だな〜と思ったのでした。

 人生変わった度

★★★

生きるのに辛くなったらパイ投げだ!

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