基本情報
公開:2022年
監督:沖田修一(他作品「南極料理人」「横道世之介」等)
主な出演者:のん(ミー坊) 柳楽優弥(ミー坊の友人ヒヨ) 井川遥(ミー坊の母)
上映時間:139分
あらすじ
<以下「さかなのこ」公式サイトより引用>
さかなクンの自伝「さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜」が原作。お魚が大好きな小学生・ミー坊は、寝ても覚めてもお魚のことばかり。他の子供と少し違うことを心配する父親とは対照的に、信じて応援し続ける母親に背中を押されながらミー坊はのびのびと大きくなった。高校生になり相変わらずお魚に夢中のミー坊は、まるで何かの主人公のようにいつの間にかみんなの中心にいたが、卒業後は、お魚の仕事をしたくてもなかなかうまくいかず悩んでいた…。そんな時もお魚への「好き」を貫き続けるミー坊は、たくさんの出会いと優しさに導かれ、ミー坊だけの道へ飛び込んでゆくーー。
感想と考察
涙は出ないが心は号泣
涙は一滴も出ませんでしたが「号泣した」!!と言いたい。(何を言っているんだ?!)それほどある界隈の人には刺さる作品と言えましょう。
そもそも、さかなクンの自伝を女性である「のん」が演じて、沖田修一監督が監督を務めると聞いた段階で「当たり」だな、絶対見に行こうと思っていたのです。結果、とても良かったです。2時間26分と長めの作品で、かつ分かりやすく「ここで泣ける!」とかではありませんが。
あと子供と一緒に見られるのかご心配の方が多かったようですが、はい、ばっちりです。お子様と一緒に見てなんの問題もありません。
さかなクン役のさかなクンをどう解釈するか?
そして問題はこれ。(以下ネタバレ注意!)作品を見た多くの人の心に残りそれなりの議論にもなっている「さかなクンご本人登場」の件です。作中、さかなクン本人が「さかなが異様に好きなまま大人になり、魚に取り憑かれた謎の中年男性」としていつもの姿で登場します。役名は「ギョギョおじさん」。原作には登場しません。
ギョギョおじさんはさかな好きの小学生のミー坊を自宅に招きます。変わり者であろうギョギョおじさんは一人暮らし。家の中は水槽でいっぱい。話の合う友達ができて嬉しかった2人は、外が真っ暗になるまで一緒に遊びます。その結果おじさんは「小学生を誘拐した不審者」としてパトカーで連行されてしまうのです。そしてついにはその町にいられなくなってしまいます。…と書くとなんだか悲劇的な話ですが、これ、コミカルに描かれるんですね。
ミー坊はこの時、ギョギョおじさんからハコフグの帽子をもらいます。そして大人になってテレビに出演する際にこの帽子をひっぱり出して被り、名実ともに「さかなクン」というキャラクターが出来上がるのです。
そしてテレビに映った「ミー坊→さかなクン」をどこかの漁港らしきところで観て「ギョギョ!」と驚くギョギョおじさん。ここにも悲壮感はありません。ただ驚いているだけです。
この描写を見てどう思います?
もちろん、ギョギョおじさんはもう一人のさかなクンです。今のように海洋大学の客員教授になるまで認められ、本を出したりテレビに出たりと『社会的に成功』していないパターンのさかなクンです。
自伝をかなり脚色したであろう本作ですが、「周囲の人に恵まれて」「幸運」が重なった結果ミー坊は成功しています。当然、「周囲の人に恵まれず」「不運」で成功できないパターンもあるわけです。私はギョギョおじさんだって幸せそうに見えました。「社会的に成功しようがしまいが『一生好きなもの』がある人生は素晴らしいということを表現している」と捉えたし、号泣したポイントもそこです。
ところがところが。ネットでみなさんの感想を検索してみると「現実の厳しさを表現している」「不幸なパラレルワールドのさかなクン」と思った人がわりといて「ギョギョギョ!!」ってなりましたよ。人によって見方がこれだけ違う。これだから映画って面白いんですけどね。
「グランブルー」オマージュで表現された「孤独」
そしてラスト。テレビ番組のロケで海中に落ちてしまったミー坊。海中で出会ったお魚に導かれるようにフレームアウトします。「グランブルー」のラストシーンと同じですね。1988年のリュック・ベッソン作品「グランブルー」の主人公は実在の素潜り世界記録保持者ジャック・マイヨールです。作中では人間よりもイルカに心を寄せる孤独な人物像になっています。孤独…という言い方でいいのかな?、、純粋なあまり人間世界には馴染めないヒト、と言うんでしょうか。「さかなのこ」のミー坊も作中では周囲に恵まれ上手くやったように見えますし、実際のさかなクンもまともに社会生活ができているように見ます。でもその心の中は本当はこうなのでは?と示唆して終わる。そこにあるのは圧倒的な孤独です。自分の一本道を突き詰めるというのは孤独に耐えることでもあるということを教えてくれるのです。
最後に
ワタシはさかなクンほど夢中なものはなかったけれど、子供の頃から苦手なことは極端に苦手だし、まともに就職したこともなく結婚も遅く子供もいない。マジョリティの側に立てたことがありません。世間とのズレをいつも感じ、時には普通になろうと必死に、時にはマイノリティを売りにして生きてきました。
ワタシにとってさかなクンは「人間を大きく2つにわけると」同じ側にいる人です。ギョギョおじさんの件は「運次第で不幸になる」とは思いたくなかったのかも知れません。そのかわり孤独はどんとこい、です。同じ「こっち側」の人にはとても刺さる作品だと思います。
さて、あなたはどうですか?
「さかなのこ」はAmazonプライムビデオで観られます〜
さかなクンが半生を綴った原作本はこちら。ワタシは拾い読みしただけですが読むと元気が出てきます!お子さんへのプレゼントにもよさそう。
同じ沖田修一監督作品「滝を見にいく」もとても好きな作品です。軽めレビューはこちら。