映画ごときで人生は変わらない

感想と考察が入り混じる映画紹介ブログ。うっすらネタバレあり。

【ある男】妻夫木聡より窪田正孝より光るある男

 基本情報

公開:2022年

監督:石川慶

主な出演者:妻夫木聡 安藤サクラ 窪田正孝

 あらすじ

弁護士の城戸は、依頼者の里枝から、亡くなった夫「大祐」の身元調査という奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経て、子供を連れて故郷に戻りやがて出会う「大祐」と再婚。新たに生まれたこともと4人で幸せな家庭を築いていたが、ある日彼が不慮の事故で命を落としてしまう。悲しみに暮れる中、長年疎遠になっていた大祐の兄、恭一が法要に訪れ、遺影を見ると「これ、大祐じゃないです」と衝撃の事実を告げる。

愛したはずの夫は、名前もわからないまったくの別人だったのだ…。

「大祐」として生きた「ある男」はいったい誰だったのか。

「ある男」の正体を追い「真実」に近づくにつれていつしか城戸の心に別人として生きた男への複雑な思いが生まれていく。

映画『ある男』公式サイト | 11月18日(金)全国ロードショー

感想のようなものと突然のでんでん

「あのミュージシャン、売れる前の方が良かったよね」さすがに今はこういうこと言う人いませんよね?嫌われますから。ええ、分かってますよ、嫌われますよね。でも正直に言います。私、その昔こういうことバンバンに言ってたヤツです。

20世紀も遠くなりサブカルが死んだ今、当時のイキリを本当に恥ずかしく思います。

すみませんでした…。

まあ、そんなこっばずかしい自己紹介はともかく!

本作品の監督、石川慶氏の「愚行録」をごく最近見まして。こりゃあまもなくヨーロッパのほうでデカめの賞獲るなと思い、「あ〜!!『あの監督良いよね〜』って売れる前から知ってます面(ズラ)したい!!」と。そんでもって「いや、今からでも遅くない!!」と。ロードショー終わりかけの「ある男」を観に走ったわけです。

(どんな動機だよ…)

「良い映画とはオープニングシーンにその作品のテーマが詰まっている」と昔、どこぞの大学の映画研にいたという人に聞いたことがあります。「ある男」のオープニングシーンは一枚の絵〜マグリッドの「不許複製」〜から始まります。この絵がですね…もうね、この絵だけでネタバレなんですわ。

男の背中と、その奥には鏡に映ったその男の正面‥ではなくて、鏡にもまた男の背中が映っているという、マグリッドらしい奇妙な絵が映し出されます。さらに、その絵からカメラがひくと、かぶさってくる妻夫木くん(弁護士の城戸)の背中が写ります。

どこまで行っても顔の見えない男の背中が3つ…。というわずかなシーンでこの作品の大事な部分を表現しちまってるわけです。ふあ〜!お見事すぎ!

神は細部に宿るとは言いますが、この映画を見てからは「神はファーストシーンに居る」と言いたい。

そんで、これは女性目線かも知れないけど、里枝(安藤サクラ)は夫に「ただならぬ過去」があることは当初からピンときてたよね。でも関係なかった。優しくて良い人なんだもの。それにバツイチ子持ちで田舎で家業の手伝いをしている自分に心を寄せてくれる誠実な人なんて、そうそう現れそうにないしね…。だからいざ亡くなった夫「大祐」の過去と直面した時、里枝は覚悟ができていた。

対して、まったく不意打ちに「こんな人生もあったんだ…」と知ってしまった男(妻夫木くん扮する弁護士の城戸)。涙を見せながらも先に進もうとする女と、狼狽える男の対比も面白かったです。

人は他者の記憶の中に生きている。法律的に「別人」になることはできても他者の記憶の中の「その人」は変わらない。

思い出の中の「その人」が良い人ならばそれでいいではないですか。

そんなことを自分に言い聞かせたのでした。

役者陣もみなさん素晴らしく、ブラボーとしか言えないのですが中でもこの人が出ると、とたんに良い映画になってしまうのがでんでんさん。

ボクシングジムの会長の役でしたが、不器用で根が優しい人間の役がピッタリですよね。(例の殺人鬼は除く)ところででんでんが「お笑いスター誕生」出身のお笑い芸人だったって、今知っている人どれだけいるんだろうか?ってか「お笑いスター誕生」って知ってますかね?

…説明しよう。

「お笑いスター誕生」は1980年〜86年、日テレで土曜日の昼やっていた番組。(後期は夕方放送になったようです)

B&B  おぼんこぼん、とんねるずなど数々のスターを生み出しました。 10週勝ち抜くとチャンピオンになれるのですが、でんでんさんは8週止まりだったようでWikiにも載っていませんでした。しかし、事務所の公式プロフィールによれば

渥美清さんに憧れ弟子入りしたく高校卒業後上京。もちろん不可。

30歳の時、素人でも参加できるお笑いスター誕生で『みんな!ハッピーかい?』等のネタで8週勝抜きを果たした。このテレビ初登場をきっかけに新進のコント作家、構成作家であった水谷龍二さんと出会い、以後水谷作品(舞台、TVドラマ)に欠かせない役者となる。

でんでん DENDEN|アルファエージェンシー(上記写真もこちらから引用)

ということらしく30歳まで何をして生活していたのか?も気になりますが、お笑いスタ誕で掴んだ人との出会いをきっかけに自力で運を引き寄せた方のように思います。そんな強さがひょうひょうとした風貌に見え隠れするのがいいんでしょうね。

と、最後はなぜかでんでんの話になりましたが、もう一つ気になったのは邦画ではあまり使われない良いカメラ使ってないっすか?!画面の黒いところの深度が高い気がしたんすよね。(特に柄本明が出てくる刑務所のシーン)こういうことってパンフレットに書いてあんのかな?パンフレット、長らく買ってないけど今年は買うようにしよう!なんてことも思いました。

人生変わった度

★★★★

「あなたが『誰』であろうと、私は今のあなただけを見ている」

そう言える人に私はなりたい。